「ただのメーカーじゃない。星を見せる会社になる!」 ビクセン社長・新妻和重氏インタビュー

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「みなさんにしあわせや感動を届ける会社になりたい」という想いから、サンタクロースのそりを引く一頭のトナカイの名前を社名にした「ビクセン」。グローバル化の波によって、かつてモノづくり大国と呼ばれた日本のメーカー各社は苦戦を強いられているが、そんな逆境をものともせずに、躍進している。

天体望遠鏡では、国内シェア60%以上の圧倒的首位を誇り、海外での知名度も高く、双眼鏡などの光学機器の企画・製造・販売・卸を行っている。星や宇宙が好きな女子「宙(そら)ガール」という言葉を生み出したり、星と食事や音楽を一緒に楽しむスターパーティをプロデュースしたり……。

そのブランディングや経営の秘訣について、公認会計士事務所勤務から経営者という異色の経歴を持つ、代表取締役社長の新妻和重さんにお話をうかがいました。


今の時代、モノを真面目に作っているだけでは生き残るのは厳しい

――まずはどんな事業をされているのか、教えてください。

天体望遠鏡をメインに、光学機器の企画・製造・販売・卸を行っています。自社ブランドを持ち、ブランディングにも力を入れています。

今の時代、モノを真面目に作っているだけでは、なかなかみなさんに気づいてもらえず、生き残るのが厳しいという現状があります。そのため、会社のミッションを「自然科学応援企業」、ビジョンを「星を見せる会社になろう」とし、足元の地球から宇宙まで、お客様に楽しんでいただくためのハブになるような会社を目指しています。

――星空観賞ツアー、スターパーティなど、たくさんの楽しそうな企画を開催されています。

近年では、年間200回を超えるイベントを行っています。自社でもキャンプ場などでユーザー向けのファンイベントを主催していますが、ほとんどのイベントがさまざまな企業とのコラボレーションによるもの。私たちの役割は、星のプロ集団として、天体望遠鏡などの機材とノウハウを熟知したスタッフをそろえて、イベント開催の手伝いをすることです。

われわれはニッチな市場を扱ってはいますが、自然科学とか星空は誰でも楽しめるものですよね。そういった点からも、幅広い企業とコラボレーションして、市場に広く訴求させていくことを目指しています。

――「宙ガール」という言葉も生み出されました。

女性ファンを増やそうという意識を持ってマーケティングをし、「宙ガール」という言葉を作りました。女性が気軽に星を楽しめるイベントも各地で開催しています。

また、「宙(そら)ジュエリー」というヒット商品も生まれました。これは、自分が身に付けている星座が空に浮かんでいる体験をしてもらうためのジュエリー。星の大きさや色、星座のかたちを忠実に再現しています。

星のアクセサリーというと12星座が一般的に多いですが、実は12星座の中には夜空で見つけにくいものもあります。なので、オリオン座、すばるなどの誰もが見つけやすい星座のラインナップにしました。

宙ジュエリー(左)オリオン座、(右)すばる

 

ファッションなど、まずは身近なところから星に興味を持ってもらい、実際に夜空でも星をながめてほしい。そして、双眼鏡や天体望遠鏡で星空観賞をするところまで徐々にステップアップしてもらう......。このように、商品には常にカスタマージャーニーの動線をしっかりと作っていくことを考えています。

あとは光学製品の購入を考えるときって、最初に一歩踏み出すハードルがすごく高いですよね。そのハードルを下げるためには、お客様が最初にビクセンに触れるものがレンズじゃなくてもいいと考えています。身近なところでは、ペンやクリアフォルダーなどの星のステーショナリーも商品企画し、販売しています。

公認会計士事務所勤務時代に得た知識と社長から教えてもらった多くのこと

――もともとは公認会計士事務所に勤務していらしたそうですね。そこではどのような業務をされていましたか?

法人の記帳代行をはじめ、取引先の経営会議や店舗会議に出て、経営に関してのアドバイスや、課題解決のお手伝いもしていました。

具体的には、帳簿の数字を見て、今月の財務状況についての話をし、売上げが伸びない、資金繰りが良くないというなら、数字をもとにバックボーンを一緒に精査していく、といった業務ですね。

クライアントの多くは中小企業でしたが、個人の相続や資産についての相談を受けたり、大手企業の監査の補佐をすることもありました。

――その公認会計士事務所には学生アルバイト時代も含め、20年近くお勤めになったそうですが、そこからどういった経緯で会社経営に携わることになったのでしょうか?

30代後半のとき、ビクセンの社長を務めていた私の父から、後継者として、経営者になってほしいと要請がありました。最初はスパッと断りました(笑)。ただ、「引き受けてくれないと引退できない」と口説かれたもので。そういう意味では純粋に「親孝行」のためかもしれません。

――会社経営に、公認会計士事務所で働いていた経験がどう役立っていますか?

会計士事務所時代、多くの社長様とお話しする機会がありましたが、今思えば、クライアントの社長様からは我々の会計知識をお教えするのと交換に、実際の経営に関するさまざまなことを教わりましたね。

なかには、「どうしたらいいんだろう?」と悩んでいる社長様もいましたから。「あの社長もあのとき同じことで悩み、こうやって解決したから、俺もこうしよう」といったふうに、参考にすることもあります。

あと、会計士事務所の役割は、「あるべき形を言う」こと。ある意味、どこまで行っても客観的な立場からアドバイスをする仕事なので、社長様の「そうはいってもしがらみがあるんだよね」という気持ちを振り払って、会計面からの理想をアドバイスしていました。

でも今は、会計士事務所時代の自分だったらこう言うだろうという「あるべき形」と、しがらみに悩む経営当事者の思いとで、両サイドからセルフで葛藤できています(笑)。

――やっぱり数字が読めると経営者として良い点がありそうですね?

数字は絵みたいなものなので、会社のいろいろな状況を描写しています。各事業部の状況、今何が足りないのか? 埋もれてしまっているのか? 固定費、変動費、変動比率がいいか悪いか。その描写を自分で読み取ることができれば、頭のなかで会社の状況を理解しやすいです。

もちろん、自社では顧問税理士も公認会計士も第三者を入れて、数字をチェックしてもらっています。ただ、自分でも数字から会社の実態が見えているので、お互いに話が早いですよね。

会計士事務所時代は、経営者の方と一緒に数字を見ながら、「この数字がこのように動いたということは、こんなことが懸念されるので、ちょっと確認してみてください」「この数字とこの数字が同時に上がるのは、在庫過多じゃないですか? 倉庫を見に行きましょうか?」などと解説をし、納得をしてもらったうえで、実態を調べる流れが必要でした。

私の場合、そういう解説は不要ですから、ある意味、うちの税理士さん、会計士さんは物足りないかもしれないです(笑)

――逆に数字が苦手な経営者が注意すべき点はありますか?

数字に弱い経営者の方は確かにいらっしゃいます。しかし、そのような方は、それ以外の部分で強みをお持ちなので、それはすばらしいことだと思います。

ただし、数字を受け入れることは大事です。というのも、分からないからと専門家におまかせと無関心だったり、聞く耳を持たなかったりでは、会社の実態と方針が分離して、経営がうまく行かないことが多いからです。

数字をちゃんと理解してもらうと、やるべきことの優先順位がつけられますし、効率的な会社経営ができるのではないでしょうか。

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星を見せる企業としてどうブランディングするか

ショールームにて。新妻社長と広報宣伝担当の神山さん。

 

――12年前の会社の状況と、現在の状況を比べると、会社はどう変化しましたか?

私が経営に関わるようになった12年前で、ビクセンはすでに創業57年。まず経営面で、安定的な利益を出せていたかという点では、火星大接近などの天文現象で盛り上がったり下がったりという状況でした。ただ、圧倒的に自己資本が大きいという点が強みでしたけどね。

そのなかで、ビクセンには本当にいいモノがたくさんあるのに、埋もれていたり、ちゃんと訴求できていなかったり、着目されていなかったり、という状況にも気づきました。

例えば現在、ビクセンでは『So-Ten-Ken』という季節ごとの星空情報を載せたフリーペーパーを配布していますが、これは昭和40~50年代から発行していたんです。まさに、フリーペーパーの先駆けですよね。でも当時、社内では当たり前になっていて、着目されることもありませんでした。ここに「実はスゴイぞ!」と着目して、コンテンツとして発展させてきました。

季節ごとの星空情報を載せた『So-TEN-ken』

 

また、かなり昔ですが、デパートの屋上で観望会を開催していたのだそうです。あるときから止めてしまっていたのですが、昔の従業員に「当時は観望会のあと、商品がすごく売れたんだよ」という話を聞いて、イベントを復活させました。

あとは、自社ブランドを持っているのに、ブランディングの面は非常に弱かったですね。

会社はモノの製造部門と販売部門があって、喧々諤々しながらやっているという状況。そこには売れるものは良くて、売れないものはよくないという基準しかありませんでした。

「ビクセンらしいものづくりって何?」「自然環境企業として、星を見せる企業としてどうすればいいの?」と問いかけ合いながら、ブランディングを強化し、12年間で会社を発展させてきました。

――そうやって斬新なブランディングを展開してきた訳ですね。

そうですね。ただ、私自身はゼロから何かを作るのは苦手なほうかもしれません。でも、面白いアイデアは社員みんなが提案してくれるし、コラボレーションの話も社員が企画してくれます。

経営者として私がすべきことは、数字を見ながら、会社の状況を常に把握すること。そして足りないもの、例えば、ブランディングを強化したり、本当は魅力あるのに埋もれている事業部門を掘り起こしたり.........。今あるものをいかに効率よく動かすかを考えることですね。

それが、会社全体がうまく行く秘訣かもしれません。

――後輩経営者たちにアドバイスをお願いします。

昔、ビクセンは東京都板橋区に工場を持ち、光学製品を作って海外に輸出をして外貨を獲得して利益を得ていました。

ただ、モノづくりの中心が中国に移ってしまった現在。われわれも製品のクオリティーに楽しさを添えた提案をしなくては生き残れないことは実感しています。

そこで新たに、毎日の生活にレンズや光学機器が関わっていくようなライフスタイルを提案し、多くの感動を生むシーンを作りたいと考えています。

何年後もそうやって躍進し続ける、魅力ある会社を共に目指したいですね。

Photo:塙薫子

新妻 和重にいつま・かずしげ

1966年、埼玉県生まれ。中央大学商学部卒業後、公認会計士事務所に入社。企業会計、経営相談、相続対策などの業務に従事する。2006年株式会社ビクセン社外取締役就任。2007年、公認会計士事務所を退職し、同社取締役となる。2008年同社代表取締役社長(8代目)に就任し、現在に至る。
株式会社ビクセン

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この記事の執筆者

阿部桃子

早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。

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