事業主がクレーム対応のために押さえておくべき法知識の基本

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製造・販売業からラーメン屋まで、どんな事業を行うにせよ、スモールビジネス事業主にとって、クレーム対応は避けて通れない問題です。そしてクレーム対応について考えるには、「法律」という観点が必要不可欠になります。どのように対応すべきか、なるべく早い段階で自分の考えをしっかり固めておきましょう。


クレーマーに対応するには前提として法知識が必要

自分が売った商品に欠陥がある(と言われた)場合、ラーメン屋でお客さんがやけどをしてしまった場合、エステでお客さんが痩せなかった場合などなど、スモールビジネス事業主にとって「クレーマー」は、遅かれ早かれ「悩みの種」になる問題です。

クレーム対応

クレーマーに対しては、基本的には「大人の対応」をするのが有効ですし、また、経営判断として「別に要求に応える必要はないけど、今回はサービスでここまではしよう」と考える場合もあるでしょう。ただ前提として、「別に要求に応える必要はない」と判断することができないと、「経営判断」もできません。そして、「要求に応える必要があるか」というのは、基本的には法律の問題です。クレーム対応には法知識が必要ですし、有用なのです。

会社や店は顧客に「何を」すべきなのか

会社やお店が顧客に対して果たすべき義務は、物を売る場合とサービスを提供する場合で異なります。

物を売る場合は、(当然のことですが)規格通りの「ちゃんとした」商品を渡すことが義務で、「インクが切れているボールペン」ではダメです。ポイントは、「インクが切れている」のが自分のせいでないとしても、やはり「ちゃんとした」商品と交換しなければいけない、ということ。「仕入れ先のミスだから工場と交渉して」とは言えません。

ただし、一点物の場合は別です。一点物の販売では、何が「ちゃんとした」商品なのか、基本的に定義することができないからです。これは,「一点物」であれば基本的に全て同じ。例えば不動産屋の場合,自分が販売した土地が後から日陰になったとしても,「その土地を渡す」という義務を果たしている以上,何も責任を負わないことが原則です。

サービス提供なら「結果」は要求されない

一方、サービス提供の場合には、上記と異なります。「自分がすべき事」をすれば良いのであり、「完璧な結果」は要求されません。美容師は髪を切ることが仕事。ショートカットにすればよいのであり、例えば「〇〇(有名女優やモデルの名前)にして」のようなリクエストに完全に応える義務はありません。エステの場合も同様。具体的に数字を約束した場合は別ですが、顧客の体重を3キロ落とす義務はないのです。

顧客の安全に配慮する必要はある

もっとも、物を売るにせよサービスを提供するにせよ、上記に加え、顧客の安全等には一定の配慮を行う義務があります。ポイントは「一定の」ということで、つまり上記サービス提供の場合と同様です。

例えば、スーパーで足を滑らせ顧客が転んでしまった場合。単に酔っ払った顧客の足がもつれて転んだ場合にスーパーが責任を負うことはありません。しかし、掃除用洗剤で滑りやすくなった状態の床で転んでしまった場合、スーパーが責任を負って治療費を負担しなければいけない場合もあります。

つまり、店側は顧客に怪我などをさせないように配慮する義務があり、床が滑りやすい状態で放置しておくのはNG。顧客が気をつけるように「清掃中なので滑りやすい」ことを周知させる看板を立てるなどの義務があります。ただ、転ばないように通路の両脇に手すりをつけたり、転んでも怪我をしないように床の素材をゴムにするまでの義務はありません。

スモールビジネス事業主が顧客に負う義務
物を売る場合 原則 「ちゃんとした」商品を渡す
一点物の場合 当該商品を渡す
サービス提供の場合 自分がすべき事をする
+
顧客の安全等に一定の配慮を行う

事前にトラブルを予防するには

クレームになる前に、事前にトラブルが予防できるのが最善です。顧客は上記の店側が負う責任を正しく理解しているわけではありません。そこで、事前に顧客とその内容を確認することが重要となります。

エステなどの事前に契約書を交わすような業態の場合は、契約書に店側が提供するサービスの中身や、「体重の減少を保証するものではありません。」などの注意事項を記載しておくことが大切。理想は契約書に記載したものを口頭でも説明し、確実に理解を求めることです。契約書は、後にクレームが来た時も、自らに責任がないことを主張するための重要な証拠となります。「当社は一切責任を負いません。」という言葉がそのまま通用するわけではないものの、後の争いを迅速に解決するためにも有用です。

また、スーパーや飲食店など、契約書を作成しない業態の場合は、顧客が気がつくように注意喚起を行うことが重要です。「ラーメンは大変お熱くなっておりますのでお気をつけください。」、「清掃中、横転注意。」などと見えやすい位置に張り紙をしておくことで、顧客の注意を促し、店側が負うべき責任は最小限に抑えることが有効です。

自分に責任があるか判断した上でクレーム対応を!

強気なクレーマーにまくしたてられると、ついついこちらが加害者かのように思って対応してしまったり、その場を収束させるために謝りたくなってしまったりするかもしれません。

しかし、多くのクレーム対策マニュアルで指摘されているように、もっとも大切なのはクレームを受けた際の初期対応です。
特に重要なのは、謝るべきところはきちんと謝り、しかし自分の責任の限度は明確にする、ということでしょう。

例えば上記の例であれば、店舗内にきちんと「清掃中なので滑りやすい」と看板を掲げていたにも関わらず、不注意なお客様が走って滑って怪我をした......という場合、自分に「法的な責任」はないとしても、自分の店内で怪我人が出た以上は、完全に「放置」するのは道徳的に問題でしょう。お見舞いに行ったり、場合によっては経営判断として「見舞金」を持参したりすることは、検討されるべきです。

しかし、その「怪我」自体が店側の責任なのではないのですから、その「見舞金」は、お客様が治療に要した費用や、一定期間働けなくなったことによる逸失利益を補填するものではありません。そうした性質の金銭を要求された場合には、「当店でお怪我をされたことを大変遺憾に思っていますが、しかしそうした金銭の支払はできません」といった形で拒否することが考えられます。

上記のような判断を行うためにも、「自分(の企業)が責任を負う範囲」を、普段から明確にしておくことが重要なのです。

弁護士 河瀬 季かわせ とき

河瀬季

コスモポリタン法律事務所(東京・音羽)所属。東京大学法科大学院卒業。起業支援など企業法務を得意としており、中小企業などのスモールビジネス事業主に対する、資金調達や労働問題などを含む各種の法務アドバイスなどを行っている。また、エンジニアやテック系ライター、ITベンチャー執行役員の経験がある元IT関連フリーランス・理系出身者であり、特許法などの知的財産法や、電子商取引・ドメインを巡る紛争など、IT法にも強い。個人サイトは「tokikawase.info」、Twitterは@tokikawase

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