企業名や商品名を決める場合には、商標とドメインの両方を検索することが重要です。商標とドメインはどちらも重要であり、そして、「片方を取れればもう片方は不要」と言えるものではないからです。企業名や商品名決定のために理解しておくべき、商標やドメインの基本と、それらの関係について解説します。
「商標権」とは、平たく言えば、自社の企業名や商品名を他社が「パクる」ことを禁止するための権利。スモールビジネス事業主にとっても心強い権利であり、申請を行い登録されると、
を禁止することができるようになります(詳細は、後述する「知っておきたい基礎知識」の「法務」内記事を参照してください)。
ただ、「商標権」は万能な存在ではありません。特に問題なのが、以下で解説するように、ドメインとの関係です。そして商標権が万能でない以上、商標権を取得しただけで満足せず、ドメインもしっかりと押さえておくことが重要なのです。
自社名や商品名のドメインを他企業等に取得されてしまうことは、防がなければなりません。自分がそのドメインでサイトを運営できなくなる......というのはもちろんですが、「サイバースクワッティング」、いわゆるドメインの不正取得などのトラブルに巻き込まれてしまう可能性があるからです。
「サイバースクワッティング」とは、成長しそうな企業・商品の名称など、後で高く売れそうなドメインを前もって取得しておき、成長後に高値で売り付ける、悪意のあるドメイン取得。国内では、百貨店の松坂屋より先に「matsuzakaya.co.jp」を取得した者が当該ドメインでアダルトサイトを運営し、松坂屋に高値で売り付けようとした事件などが有名です。
ただ、こうした「サイバースクワッティング」に対しては、「ドメインの移転請求」という手段で対抗することが可能です。
「ドメインの移転請求」には、二つのルートがあります。
解決を求める相手 | 処理に用いられるルール | ||
---|---|---|---|
紛争処理 | 一般トップレベルドメイン(「.com」「.net」など) | WIPO仲裁調停センター | UDRP処理方針という紛争処理方針 |
JPドメイン | JPRS | JP-DRPという紛争処理方針 | |
訴訟 | 裁判所 | 不正競争防止法 |
紛争処理は簡易で時間もかかりませんが法的拘束力がなく、紛争処理で負けた相手は続けて訴訟を起こすことが可能、という関係です。
どちらのルートを用いるにせよ、「処理に用いられるルール」はほぼ同じであり、おおむね、
上記の二条件を満たせばドメインの移転請求が認められる、というものです。例えば上記の松坂屋の事件であれば
(1)松坂屋には「matsuzakaya.co.jp」を使う正当な利益等があるため、仮に松坂屋が移転請求を求めれば、その請求は認められたと思われます。
さて、では例えば、(1) 自社が「弥生会計」という商標権を持っている場合、(2)「yayoikaikei.com」ドメインを持っている相手には「正当な利益等」がない、と言えるのでしょうか。
ここが、重要なポイントです。
上記通り、商標権は、
を禁止する権利です。......と、いうことは、自社が商標権を取得したとしても、他の分野(区分)で自分と同じ名称の商標権を持っている企業はあるかもしれません。そして、ドメインは「分野(区分)」と関係なく、世界に一つです(さらに、一つの会社が「.com」「.net」「.jp」全てを取得することなども可能です)。同じ名称の商標を持っている企業同士では、完全な「早い者勝ち」になってしまうのです。
ネット時代においては、商標権とドメインは、両方ともビジネスにとって非常に重要です。
商品やサービスをリリースする際には、その名称と分野(区分)で商標権が既に取得されていないか、そしてその名称のドメインが空いているかをチェックし、可能な限り速やかに商標権とドメイン、両方を取得しましょう。
photo:Thinkstock / Getty Images
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この記事の執筆者
モノリス法律事務所 代表弁護士。東京大学法科大学院卒業。起業支援など企業法務を得意としており、中小企業などのスモールビジネス事業主に対する、資金調達や労働問題などを含む各種の法務アドバイスなどを行っている。また、エンジニアやテック系ライター、ITベンチャー執行役員の経験がある元IT関連フリーランス・理系出身者であり、特許法などの知的財産法や、電子商取引・ドメインを巡る紛争など、IT法にも強い。個人サイトは「tokikawase.info」、Twitterは@tokikawase。
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