第二の開業で途上国に自立をうながす 株式会社スルシィ・関谷里美氏

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執筆者:安田博勇

第二の開業で途上国に自立をうながす 株式会社スルシィ・関谷里美氏

関谷里美さんは東京・青山で25年間、輸入雑貨店を経営した元・店舗経営者。2010年にお店を閉店し、2011年11月に株式会社スルシィを設立しました。以来、フィリピンにフェアトレード(社会的・経済的に立場の弱い人たちに仕事の機会を与え、公正な対価を支払うことで自らの力で暮らしを向上させ、自立できるように支援すること)の仕組みを作り、フィリピンの女性たちを支援しています。関谷さんは「第二の開業」にどんな思いを込めたのか、お話を伺いました。



――前職ではどんなお仕事をされていたのでしょう?

25年間、東京・青山で輸入雑貨屋(1984年開業)を経営していました。雑誌とかでもたびたび紹介されるような、なかなか評判のお店だったんですよ。

――なぜお店を閉店されたのですか?

決して売上は悪くなかったのですが、開店から25年間というひと区切りを迎え、ふと、そろそろやめて次のことを、と思ったんです。実のところ、これまでにも何度かやめたいと思ったことがあるにはあったんですが二の足を踏んでいました。そのときは不思議とすんなりやめる決断ができたんです。

――その後2011年にスルシィを創業され、ヤシの葉の"ラフィア"を使ったバッグの製作・販売を始められます。どんな経緯があったのでしょう?

閉店の残務整理を終え、息抜きにフィリピン・セブ島に旅行に行ったときのことです。現地のお土産屋さんに立ち寄り民芸品を見ていたのですが、そこで売られていた地元の民芸品の価格がとても安いことが気になったんですね。そこにはラフィア製品は売られていませんでしたが、その民芸品を作っているのは現地の女性の方々。販売価格から逆算し、「いったいいくらの賃金をもらっているのだろう」と思い、日本に帰ってきてからも頭の隅から離れませんでした。

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――帰国してからどんな行動に移られたのですか?

私は美大出身でデザインにも興味がありましたし、文化服飾学院でニットのことも勉強していました。その経験をもとに、現地でなにか技術指導ができないか、と思ったんです。インターネットで女性がモノ作りをしているNPO団体などの関係機関を調べ上げ、現地で人を集めてもらえないかとメールしました。

返答はなかなか得られませんでしたが、諦めずに続けているうちにフェアトレードの団体に行き着き、そこで人を集めてくれることになったんです。

――現地での技術指導はどんなものだったのでしょう?

毎回、10日間くらい現地に滞在し、最初はかぎ針の持ち方から編み図記号の読み方までゼロから教えました。その頃はだいたいセブ島とボホール島で各10名くらいの編み子さんだったでしょうか。帰りがけには彼女たちに宿題を渡し、帰国して新商品のサンプルを編み、また現地に戻って出来上がっているバッグをチェックし新しいバッグの編み方を教え、工賃を支払う。そんなことをだいたい2〜3ヵ月に1回のペースで、約2年弱続けました。

――指導を続けるなかで、特に困ったことはありませんでしたか?

これは国民性なのか、技術的な部分より、厳しく言わないと約束を守らないことや言い訳をすることでしょうか。日本・フィリピン間でトレードをする以上は、納期を守らなければ確実に仕事がなくなります。「趣味でやっているのではない、ビジネスなんだ」ということを繰り返し言うことで、理解をうながしています。

――関谷さんの「第二の開業」に至るその行動力には驚くことばかりですが、ご年齢を重ねていくことで仕事に対する価値観も変わっていったと感じますか?

多少なりともあると思いますね。やはりちょっとは社会の役に立つことがしたいと思うようになりました。ただ、以前の仕事と比べても、ビジネスとして成功させなければいけない、と思う気持ちに変わりはありません。フェアトレードも、商品が売れなければ続くはずもなく、彼女たちに賃金を払えなくなる。実際、ビジネスとしてのイメージを持つまでには不安な気持ちもありました。

――その不安が晴れたのは、どのタイミングでしたか?

2年弱の技術指導を終えて販売する運びとなり、百貨店からも良い反応を得られたときからです。2012年6月に某大手百貨店でラフィアバッグのデビュー展を開かせていただき、その翌年くらいから百貨店からお声がけいただくようになりました。それが徐々に自信となったように思います。

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――そうしたビジネスの実績が評価され、西武信用金庫と銀座セカンドライフが共催する『セカンドライフビジネスコンテスト2016』(50歳以上が対象)で見事に最優秀賞を受賞されましたね。

マスコミで私の事業を紹介してくださる機会があったのですが、そのときに記者さんに聞かれたのが「関谷さん、何か賞って持っていますか?」。私も「あ、世の中ってそういうものなのか」って思いましたね(笑)。

悔しい思いをしたというわけではないのですが、それをきっかけに昨年はいろいろな賞にトライしました。ビジネスコンテストは応募するのにも、ビジネスモデルを文章にまとめ上げなければいけません。大変な思いもありましたが、受賞することでいろいろな人にスルシィのことを知ってもらえました。新規性、マーケティング、将来性など、頭の中を整理できる、いい勉強にもなりました。

――ところで、現在もセブ島には定期的に通われているのですね。

はい、2ヵ月に一度通っています。編み子さんとの信頼関係を大事にし、いいモノを作っていきたいですね。現在はセブ島にアトリエを構えていて、50名ほどの編み子さんたちが働いています。昔は定職がなかった女性たちが、今は子育てや家事をこなしながらも働ける環境をとても楽しんでくれています。賃金も1年を通して、2週間に一度、きちんとお支払いするようにしています。

なによりも、彼女たちは新しいことを覚えることにとても積極的です。スルシィでは、バッグの一部だけを作らせて後で組み合わせるような分業制はとっておらず、1人が1つのバッグを完成させています。

ほら、バッグについているこの丸台紙を見てください。

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――何かサインが入っていますね。

バッグを編んだ編み子さん直筆のサインが入っているんです。生産農家の顔がわかる野菜みたいに、お客様にもとても安心していただけると考えております。編み子さんたちも、サインをする以上、責任を持って作っています。

新しいデザインのバッグを見せると、「難しそう」とか言いながらも目を輝かせ、どんどん新しい編み方を覚えていきます。そんな編み子さんたちを見ていると私もうれしい気持ちになりますね。

――将来的にはどんなことを考えていますか?

今アトリエ工房があるセブ島の小さな町に住む多くの人たちが、誇りを持ってスルシィの仕事に従事し、正式にではなく愛称でも、町の名前が「スルシィ」になり、みんなから愛される企業になったらいいな、と思っています。「スルシィ」は古いセブ語で「(ハンディクラフト的な)手づくり」の意味です。その音からアルファベットに当てはめたのがこの社名で、現地の人たちには耳障りがいいようです。3案があった名前の候補のうち、ほぼ満場一致で「スルシィ」に決まりました。

――素敵な夢ですね。

創業以来、編み子さんたちの賃金の3%をスルシィ基金として積み立てていて、医療費や子どもたちの学資金に使っています。ゆくゆくは基金をもとに小さな図書館を作りたいと考えています。また、現在は現地にリーダー役も生まれていて、現地に根差した取り組みのひとつとして、現地の刑務所に収監されている女性に編み物を教えたり、学校で家庭科の授業の一環として子どもたちに教えるプランも進行中です。

こうした地域に根ざした取り組みにも力を入れ活動を継続することで、現地に雇用や生活の根を張らせたい。そう今は思っています。

――後身の指導についてはいかがでしょうか?

今は私が1人でデザインを担当していますが、本当は現地の女性たちに任せてしまってもいいんです。そのために編み子さんたちが自分でデザインし編んだバッグのコンペティションも開催しています。

もし私が30代だったら一緒に頑張っていけるのでしょうが、そう言ってもいられない。みんなが自立して幸せになってくれることが一番です。

――関谷さんのご活躍は、すべての事業主に勇気を与えるものだと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

関谷里美せきや さとみ
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1951年栃木県生まれ。女子美術短期大卒業後、イギリス・ギリシャへ語学留学に。帰国後、東京・青山で輸入雑貨店「CAT HOUSE」をOPEN。猫グッズや輸入雑貨ブームに乗りマスコミでも話題に(25年間経営)。フィリピン・セブ島旅行中に民芸品と出会いフェアトレード事業構想へ発展、2年掛けてセブ島とボホール島の女性にかぎ針での手編み技術指導を行い、品質安定化に成功。2011年11月に株式会社スルシィを設立。原料確保と50名の編み子さんの体制を確立し、国内主要都市の百貨店などで販売している。

スルシィ(Sulci)ホームページ:http://www.sulci.co.jp/ Sulci FBページ:https://www.facebook.com/SulciBag 公式ブログ:http://sulci.blog.so-net.ne.jp/

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この記事の執筆者

安田博勇
安田博勇

1977年生まれ。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

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