後継者に悩む中小企業経営者に朗報!利用しやすくなった事業承継税制【平成30年度税制改正】

公開日:

執筆者:浦田泉

中小企業経営者の高齢化が進み、中小企業の事業承継が深刻化しています。元気な中小企業が事業承継をスムーズに行えるよう、平成30年度の税制改正において、平成30年4月1日から事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」が抜本的に拡充され、10年間の特例措置が設けられました。


POINT
  • 事業承継にかかる負担が軽減され、より利用しやすく
  • 税制適用の要件を緩和し、税制適用後のリスクも軽減
  • 「都道府県知事の認定」、「税務署への申告」を忘れずに!

改正の背景

中小企業の経営者は、自分の会社の株式をかなり持っていることが一般的です。会社の経営者が亡くなった場合、その後継者に株式が相続されることが多いかと思いますが、その際、相続した自分の会社の株式にも相続税が課税され、原則として現金で納税することになります。
中小企業の株式は、会社の業績に連動して価値が決まりますので、業績のよい企業、成長企業であるほど、相続した株式の価値が上がり、多額の相続税が課税されることとなります。
結果として、業績好調で元気な会社の後継者が、相続税の納税資金が準備できず、最悪の場合、会社の解散も検討せざるを得ない、といった事態に陥ることも少なくありませんでした。
このような事態に対応するため、平成21年度の税制改正で、次世代に事業をバトンタッチする中小企業に対して、非上場株式等にかかる相続税、贈与税の納税を猶予する制度「事業承継税制」が誕生しました。

一方、「2017年版中小企業白書 概要」(中小企業庁調査室)の、中小企業の経営者年齢の分布を見ると、経営者年齢の山が1995年は47歳だったのに対して、2015年には66歳に移動し、中小企業の経営者年齢が高齢化していることが明らかになりました。中小事業の事業承継の問題は喫緊の課題となっているのが現実です。

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(出典:「2017年版中小企業白書 概要」(中小企業庁調査室))

そこで、平成30年度の税制改正では、成長する中小企業の事業承継がさらに円滑に進むよう、制度面からバックアップすべく、今後5年以内に承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行なう者を対象とし、事業承継税制を抜本的に拡充、10年間の特例措置を設けることとなりました。
特例措置の具体的なポイントは以下のとおりです。

事業承継にかかる負担の緩和

今回の改正では、事業承継にかかる負担を軽減するため、この税制の適用要件が緩和されました。大きく2つのポイントがあります。

  • 対象株式数の上限が撤廃され、猶予割合が100%に拡大
  • 税制の対象者が拡充され、最大3人の後継者への承継も対象に

1点目は、対象株式上限等の撤廃です。これまでの制度では、先代の経営者から贈与または相続により取得した非上場株式のうち、議決権株式総数の2/3に達する部分までの株式等が対象(贈与又は相続前から後継者がすでに所有していた部分は対象外)でした。たとえば、相続税の場合、猶予割合は80%であるため、猶予されるのは2/3×80%=約53%のみ、となっていました。
今回の改正で、対象株式数の上限が撤廃され、議決権株式の全てが猶予対象になるとともに、猶予割合が100%に拡大されることになりました。これにより、事業承継時の贈与税・相続税の金銭負担がゼロになります。

2点目は、税制の対象者の拡充です。これまでの制度では、1人の先代経営者から1人の後継者へ贈与・相続がされる場合のみが対象となっていましたが、改正により、親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象となりました。
最近では、後継者は社長の息子などの親族ではなく、社長と苦楽を共にしてきた親族以外の従業員(重役)などであるケースも増えてきました。従来は、こうした親族以外の方への事業承継は制度の対象外となっていましたが、社会情勢を鑑みて、中小企業の実情に合わせた、多様な事業承継を制度面で支援できるように改正されています。

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(出典:「平成30年度事業承継税制の改正の概要」(中小企業庁)より)

税制適用後のリスクの軽減

事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制ですが、税制適用後に一定の要件を満たすことが求められており、この要件が厳しく、税制を適用したことによるリスク要因となることがありました。
これまでの制度では、後継者が自主廃業や売却を行う際に、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税が課税されることになっていました。そのため、過大な税負担が生じる可能性があり、税制を適用したことによるリスク要因となっていました。
平成30年度の税制改正により、売却額や廃業時の評価額をもとに納税額を計算し、承継時の株価をもとに計算された納税額との差額を減免することが盛り込まれました。経営環境の変化による将来不安を軽減することが狙いです。

また、これまでの制度では、税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ猶予が打ち切られ、打ち切り後は猶予された贈与税・相続税の全額を納付する必要がありました。これは、制度利用を躊躇する大きな要因のひとつとなっていましたが、今回の改正により、雇用要件は実質的に廃止となり、雇用維持要件を満たせない場合でも納税猶予が継続可能となりました。
ただし、5年間で平均8割の雇用を満たせなかった場合には、理由報告が必要となります。経営悪化が原因の場合は、認定支援機関による指導・助言を受ける必要があるため、雇用維持要件は完全に廃止となったわけではない点に注意が必要です。

さらに、原則として直系卑属への贈与(60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫への贈与)のみが対象となっていた相続時精算課税制度について、今回の改正で、現行制度に加えて、事業承継税制の適用を受ける場合には、60歳以上の贈与者から20歳以上の後継者への贈与を相続時精算課税制度の対象とすることも決まりました。贈与者の子や孫でない場合でも、適用される点がポイントです。

手続き上の注意点

事業承継税制の特例措置の適用を受けるためには、次の2つの点を満たしていることが必要です。

① 平成30年(2018年)4月1日から平成35年(2023年)3月31日までに、都道府県庁に「特例承継計画」を提出していること
② 平成30年(2018年)1月1日から平成39年(2027年)12月31日までに、贈与・相続(遺贈を含む)により自社の株式を取得すること

そのため、平成29年(2017年)12月31日までに贈与・相続により株式を取得した場合は、特例の認定を受ける(あるいは通常の認定から特例の認定へ切替えを行う)ことはできません。

納税猶予を受けるためには、「都道府県の担当課への認定申請等」、「税務署への申告」の手続が必要となります。
まず、会社の後継者や、承継時までの経営見通し等を記載した「承継計画」を会社が作成し、認定支援機関(商工会、商工会議所、金融機関、税理士等)が所見を記載し、主たる事務所の所在地を所轄する都道府県庁に提出します。

承継計画は平成35年(2023年)3月31日まで提出できますが、平成35年(2023年)3月31日までに相続・贈与を行う場合、相続・贈与後に承継計画を提出することも可能です。
贈与の実行または相続の開始後に、都道府県庁に対して納税猶予の特例の認定申請を行ないます。
贈与の場合は贈与の翌年1月15日までに、相続の場合は相続の開始後8カ月以内に申請してください。申請には、承継計画を添付します。
認定申請後、認定書の写しとともに、税務署に贈与税(相続時精算課税制度の適用を受ける場合には、その旨を明記)、相続税の申告を行ってください。

申告期限後5年間は、都道府県庁へ「年次報告書」(年1回)を、税務署へ「継続届出書」(年1回)を提出します。
5年経過後に実績報告を都道府県庁、税務署に提出します。このときに雇用が5年平均で8割を下回った場合には、満たせなかった理由を記載し、認定支援機関が確認することになります(理由が経営状況の悪化の場合は、認定支援機関からの指導・助言も必要となります)。
6年目以降は、税務署に「継続届出書」を3年に1回、提出する必要があります。提出スパンが長いため、うっかりすると忘れてしまうこともあるのでご注意ください。

「2017年版中小企業白書 概要」(中小企業庁調査室)によると、中小企業基本法の定義による中小企業数は380.9万社となっています。日本の企業の、実に99.7%は中小企業なのです。
日本の産業を根底から支える、元気な中小企業の事業承継をスムーズに行なうことは、日本の産業、経済のためにも必要なことなのです。

【参考】
中小企業庁:「平成30年4月1日から事業承継税制が大きく変わります」概要と申請書類の入手
中小企業庁:「経営者のための事業承継マニュアル(※)
※このマニュアルでは、事業承継の重要性が紹介されています。なお、このマニュアルで説明している事業承継税制は、平成29年度版で改正前の制度です。平成30年度税制改正により、時代にあわせた事業承継が容易になったことがわかります。

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この記事の執筆者

浦田泉
浦田泉

税理士。会計事務所、コンサルティング会社を経て2003年「いずみ会計事務所」を開業。自身の起業経験から、特に女性経営者の起業、会社経営、成長戦略などのお手伝いが得意分野。また、新人の経理担当者でもすぐに使えるようになる弥生会計は、顧問先への導入、指導の実績が多数ある。

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