商売をするときに「売掛金(うりかけきん)」という言葉を聞かないことはありません。
売上と売掛金は似ているようでその意味合いは違います。
売上が増えることはよいことですが、売掛金が増えることには慎重になる必要があります。
売掛金は回収するものであり、放っておくと貸倒れになったたり、時効によって回収し損ねるということもあるのです。
今回は売掛金や買掛金について、またその時効についてなどの解説をいたします。
「売掛金」とは簡単にいうと、モノやサービスの代金を受け取ることができる権利のことをいいます。
現金商売がメインの小売や飲食店、理美容など、実店舗でモノやサービスを提供する場合は、商品をレジ打ちするときや、料理を食べ終わって会計するときなど、基本的にお店を出るまでの間に売上代金を受け取りますね。この場合はモノやサービスを提供したときに代金も受け取るので、その時点で売上があがるとともにお金も増えます。
ここで、飲み屋さんを例にとってみましょう。ちょっと昔のドラマなどで「ツケといて」などといって常連客が代金を払わずにお店を出ていくシーンを見たことはないでしょうか。この「ツケ」とは、今度来た時に払うから帳簿につけておいて、という意味です。その場では代金を受け取ることはできませんが、「誰にいくらの貸しがある」と帳簿をつけておいて、次回お店に来たときに代金を受け取るのです。これこそが売掛金です。
ツケにしたときは、料理などを提供しているのでその時点で売上はあがりますが、代金を受け取れていないのでお金は増えません。その代わり、代金相当の売掛金という権利が増えるのです。そして次回来店して代金を受け取ったときは、売掛金という権利分のお金を受け取ったということで売掛金という権利がなくなり、お金が増えるのです。
このような取引のことを掛取引(かけとりひき)といい、信用取引ともいわれます。売上代金を後日受け取るということは、相手先がなかなか支払ってくれなかったり、最悪倒産してしまったりというリスクを負うことになります。
さきほどの飲み屋さんの例でも、顔の知れた常連客だからツケにできるわけで、初めてのお客さまのツケに対応するのはなかなかできないことです。つまり、常連客には「次回支払ってくれる」という信用があるから掛取引に応じられるのですね。
ここでの例は飲み屋さんの場合でしたが、一般的な商取引においても特定の取引先と頻繁に売買を行う場合は、毎回現金のやりとりを行うよりも一定期間をまとめて決済する方が効率的です。そのため、例えば月まとめで売買記録をつけておいて、月単位で請求書を作成して取り決めた期日までに決済を行う掛取引が採用されているのです。
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売掛金と対になる言葉として買掛金があります。読んで字のごとくですが、売買の立場を反対にした見方です。売掛金が売上代金を後で受け取ることができる権利であるのに対し、買掛金は仕入代金などを後で支払わなければならない義務のことをいいます。
売掛金、買掛金はともに、貸借対照表の勘定科目で、ある時点でその金額がどのくらい残っているかを示します。売掛金は後でお金が受け取れる権利として「資産」の項目として計上し、買掛金は後でお金を支払う義務として「負債」の項目として計上します。
一般的に飲食店や理美容業などは現金商売で、売上代金はその日のうちに受け取りますが、食材など材料代は掛取引で行うことが多いため、貸借対照表では売掛金よりも買掛金の方が多くなる傾向があります。
資金繰りを考えた場合には、当然ですが売上代金は早く回収できて、仕入代金は遅く支払える方が楽ですよね。貸借対照表を見るときにはこれらのバランスにも注意してみるとよいでしょう。
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未収金(未収入金)も、売買などを行っているのにまだその代金を受け取っていないという意味の勘定科目です。売掛金と未収金はどちらも代金を受け取っていないというところでは同じですが、その取引のもととなる内容が、営業取引(本業の取引)であるかどうかで違いがあります。
その営む事業の売上となる取引についての掛取引にかかるものが売掛金になります。なお、建設業などでは完成工事未収入金、医業では医業未収金など、業種によって名称が異なる場合もあります。
その営む事業の売上となる取引以外について、代金などを受け取っていないものが未収金になります。例えば、備品をリサイクルショップへ売却したときや、事業用の車両を売却したときなどで、代金が後から振り込まれるときなどが該当します。
実際に掛取引を複式簿記で仕訳をするときは、どのようにしたらよいでしょうか。小売店を例にとってさまざまなケースを見てみましょう。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
現金 | 5,000 | 売上 | 5,000 |
現金販売の場合、その場で売上もお金も増えるので1回の仕訳で終わります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
商品を販売することによって、売上があがるとともに後日に代金を受け取る権利である売掛金が増えます。本来は売上の都度この仕訳をするべきですが、締日ごとなどで合計して帳簿づけをすることも認められます。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 100,000 | 売掛金 | 100,000 |
預金に振り込まれることによって、預金が増えるとともに、代金を受け取る権利である売掛金は消滅してなくなります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 9,700 | 売上 | 10,000 |
支払手数料 | 300 |
販売代金は10,000円ですが、手数料300円がかかるので振り込まれるのは9,700円です。300円は費用として、手取りの9,700円を売掛金として仕訳します。なお、クレジットカード決済の場合、売上代金を受け取る権利はお客さまに対してではなく信販会社に対してですので注意しましょう。この場合、勘定科目も区別するために売掛金ではなく「クレジット売掛金」というものを使用する場合もあります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
普通預金 | 9,700 | 売掛金 | 9,700 |
例2-2と同様で、信販会社からの振込によって売掛金は消滅してなくなります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
売上 | 5,000 | 売掛金 | 5,000 |
返品があった場合には、売上がなくなるとともに、売掛金の権利も消滅してなくなります。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
---|---|---|---|
貸倒損失 | 150,000 | 売掛金 | 150,000 |
残念ながら売掛金が回収できなくなってしまった場合には、貸倒損失(かしだおれそんしつ)として処理します。なお、貸倒損失が認められるためには一定の要件を満たす必要があり、代金を支払ってもらえないからといって自由に貸倒損失を計上することはできませんので注意してください。
「あのときのお金をまだもらってないんだけど?」「そんなの時効だよ!」こんなやりとりを聞いたことはないでしょうか。
売掛金は「後で代金を受け取れる権利」と説明しましたが、売掛金は債権のひとつです。債権には消滅時効があり、一定期間その行使をしないときには時効が成立して債権が消滅してしまいます(当事者が時効の援用をする必要があります)。
債権の時効は原則10年ですが、商取引による債権は5年となり、さらにその内容が工事請負代金や医療費などであれば3年、卸・小売などの代金であれば2年、飲食代や宿泊代などであれば1年など、その期間は短縮されてしまいます。
なお、改正民法が平成29年(2017年)5月に成立、同年6月に公布されていて、公布から3年以内に施行されます。施行により債権の消滅時効は5年に統一されます。これらは法律の分野であるため、詳しくは弁護士等の専門家へご確認ください。
時効は請求、差押え、仮差押えまたは仮処分、承認などによって中断させることもできますが、相当の労力、時間、コストをかけることになるので売掛金の管理はしっかりとしておきたいものですね。
また、貸倒れなどの被害を最小限に防ぐためにも、取引先との状況をみて掛取引の取引量をどこまで対応するかなどを決める「与信管理(よしんかんり)」も重要です。与信とは相手に信用を与えるという意味ですが、この取引先であれば売掛金がこのくらいになっても大丈夫だろうという、取引の限度額を決めることをいいます。
もちろん、個人事業主が取引先の財務状況を調べたりすることは難しいですが、新規の取引先でいきなり多額の掛取引は行わないとか、取引先の人となりを見たり、口コミを調べてみるなど、目の前の売上にとらわれないように心がけるようにしましょう。
さて、ここまで売掛金の意味や仕訳について説明してきました。しかし、特定の取引先との掛取引について、ただ売掛金が発生したという帳簿づけをしていても、どの取引先にいつ売上があり、いつ入金して、いまいくら未回収金額が残っているかというのはわかりませんね。
そこで、売掛金の管理のために補助的に使用する帳簿があります。売掛帳(得意先元帳ともいいます)がそれで、取引先ごとにページを用意して、掛取引の発生・代金の回収を記入していく帳簿です。この売掛帳を使用することによって、取引先別の回収状況や取引量などを管理することができます。
なお、具体的な売掛帳の書き方についてはこちらの記事をお読みください。
【参考記事】
・【青色申告】備付帳簿の説明と書き方・「売掛帳・買掛帳」について知ろう
いかがでしょうか。売掛金は事業資金のなかで重要なものであり、売掛金が回収されてお金にならない限りは利益が実現しませんし、なによりもそのお金が入ってこないことには経費の支払いや次の仕入れのための資金がありません。ちょっとした売掛金の滞留(たいりゅう、入金が滞ること)でも、資金繰りには大きなダメージを与えてしまうのです。
最後に、売掛金の滞留、貸倒れなどに備える制度・サービスを紹介しておきましょう。
経営セーフティ共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する、取引先事業者が倒産した際に中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れでき、掛金は損金または必要経費に算入できるという税制優遇も受けられます。
【参考】
・中小機構:経営セーフティ共済
【関連記事】
・中小企業なら活用すべき! 「経営セーフティ共済」とは?
・「経営セーフティ共済」の節税効果
Misocaは、シンプルな操作で請求業務がすぐに完了する、個人事業主の方に最適な「クラウド見積・納品・請求書サービス」です。Misoca回収保証は、Misocaで発行した請求書に売掛金の回収保証を付与することができるサービスです。
Misoca回収保証が付与された請求書に対して、支払いの遅延や取引先の倒産等によって売掛金の回収ができなくなった際に、損害が補填されます。請求先が一般消費者の場合は対象外となりますが、請求書単位で保証を付与することができるので、新規の取引先や取引金額が大きい場合などに個別に設定できて便利です。
【参考】
・Misoca:Misoca回収保証とは
photo:Getty Images
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この記事の執筆者
1972年生まれ。税理士。弥生認定インストラクター。「宮原裕一税理士事務所」
弥生会計を10年以上使い倒し、経理業務を効率化して経営に役立てるノウハウを確立。弥生会計に精通した税理士として、自身が運営する情報サイト「弥生マイスター」は全国の弥生ユーザーから好評を博している。
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