従業員が産休・育休する場合、どのような手続きが必要? 手続きや提出書類、スケジュールを解説!

2021/03/31更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

従業員が出産をしたときや、子育てで育休を取りたいというときには、会社もいろいろな手続きを行うことになります。従業員にとっても、長期の休業をするということは、多少の不安があるものです。会社として、できる限り気持ちよく休業に入ってもらうためにどのようにすればよいのでしょうか。産休・育休制度に関しての手続きや提出書類、また取得期間やスケジュールなどを解説します。

POINT

  • 産前産後休業や育児休業は、取得できる期間が定められている
  • 育休については、労使協定や有期契約社員についての制限がある
  • 休業期間中には、社会保険料の免除や、各種給付の手続きを漏れなく行う必要がある

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そもそも産休・育休制度とはどんなものか

産休や育休とは、従業員が出産をした場合や育児を行う場合に、法律上休まなければならない、または休むことができる制度です。

正式には、産休は「産前産後休業」、育休は「育児休業」といい、それぞれ、労働基準法、育児・介護休業法という法律で定められています。以下では、産休、育休という言葉を使います。

法律上の産休・育休は、社会保険料の免除や、休業時の従業員への給付金の支給がありますので、厳密に期間や要件が定められています。

詳細は後述しますが、それぞれについて簡単にまとめました。

従業員が休める期間 条件
産休 産前 出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前) 本人からの請求
産後 出産の翌日から8週間 強制(ただし、産後6週間を経過し、医師の許可がおりた場合には就労可能)
育休
  • 産後休業の翌日(産後57日目)から、子が1歳の誕生日を迎える前日まで
  • 保育所(保育園)に入所できない場合には、子が2歳の誕生日を迎える前日まで
本人からの請求

産休は母体の保護が目的なので、女性のみが取得できる制度です。一方、育休は育児が目的なので、男性・女性に違いはありません。

どうする?従業員から産休・育休の申し出があった場合の対応

従業員が出産することになり、産前休業を取得したいと会社に申し出てきた場合、会社は拒むことはできません。

会社としては、業務の都合などもありますが、出産というおめでたいことがあったときに、従業員にイヤな思いをさせたくはないものです。また法律上決められている従業員の権利である以上、なんとかそれに合わせて対応していかなければならないというのが、人を雇う会社の責務ともいえます。

担当者ひとりしかできない業務をなくしたり、産休や育休の間だけ臨時で人を雇ったり、一定期間一部業務を外注したりすることで、従業員が安心して、気持ちよく産休・育休を取れる環境をつくってあげましょう。

男女雇用機会均等法でも、妊娠、出産、育児を理由に、業務内容や昇給などにおいて不利益な扱いを行うことは禁止されています。また、労働基準法においても、産前・産後休業期間およびその後30日間の解雇は禁止されています。

このようなマタニティハラスメント、いわゆるマタハラは、法律で禁止されているというだけでなく、職場の雰囲気にも影響してしまいます。

産休・育休を取得するための条件とは

先ほどの表でも記載したとおりで、産休や育休は法律上従業員に認められる権利なので、本人が希望した場合には、基本的に会社が拒否することはできません(産後休業のように、本人の希望にかかわらず休まなければいけない期間もあります。)

就業規則がある会社では、就業規則に産休や育休についての項目がある場合が多いです。しかし、産休や育休自体は法律で従業員に当然に認められた権利です。就業規則への記載の有無にかかわらず、会社が取得を拒否することはできません。

ただし育休については、いくつかの例外があります。

例外その①:労使協定で定めた場合

労使協定(会社と従業員との間で書面により締結された協定)では、以下の従業員については育休の対象外とすることができます。

  • 1.
    雇用されている期間が1年未満の従業員
  • 2.
    1年以内に雇用関係が終了する従業員
  • 3.
    週の所定労働日数が2日以下の従業員

裏を返せば、労使協定がない場合には、たとえ雇用したばかりの人であっても請求があれば育休を取得する権利があるということです。

育休が従業員の権利とはいえ、会社としては、それなりのコストをかけて人を雇ってもすぐに育休取得となると、業務の進行の計算が大きく狂ってしまいます。このような事態を予防したい場合には、あらかじめ労使協定を締結しておく必要があるということです。

例外その②:有期契約で働く従業員の場合

有期契約の従業員の場合は、労使協定の有無にかかわらず、以下の1)~3)の要件をすべて満たしている場合に限って、育休を取得できます。

  • 1.
    同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている
  • 2.
    子どもの1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれる
  • 3.
    子どもの2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了することになっていて、かつ、契約が更新されないことが決まっていない

なお産休については母体の保護が目的なので、例え有期契約であろうとアルバイトであろうと決められた期間については働いてもらうことはできません。特に産後6週間については、本人がいくら働きたいと希望しても休ませる義務が会社にはあります。

産休・育休の期間はいつからいつまで?計算方法は?

産休や育休については、法律で取得期間が決められています。

産前休業-出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)

産前休業は本人の請求によりますので、本人の請求がなければ会社から無理に付与する必要はないということになります。

産後休業-出産の翌日から8週間

産後休業は本人の意思に関係なく強制なので、会社には休ませる義務があります。ただし、産後6週間を経過し、かつ医師の許可がおりた場合には働いてもらってもよいことになっています。

育休

産後休業の翌日(産後57日目)から、子が1歳の誕生日を迎える前日まで取得可能です。
保育所(保育園)に入所できない場合には、子が1歳6ヵ月に達するまで延長できます。さらに1歳6ヵ月に達しても保育所(保育園)に入所できないといった場合には、更に子が2歳の誕生日を迎える前日まで育休を延長することができます。

育休は、男性・女性の区別なく取得することができます。
例えば、会社が、「女性のみ育休を取得できる。」といったことを就業規則などで定めても無効です。社内では申請フォーマットを用意して、「〇日前までに提出する」などといったことを定めておきましょう。

次に具体的な期間について見てみましょう。産休にしても育休にしても、〇日間や〇週間など、数字が数多く出てきて、実際にいつからいつまでがその期間に該当するのかということがわかりづらいものです。実務においても、結局何日から何日までかということがわかれば十分でしょう。

こういうときには、以下のようなサイトで計算するのがオススメです。

参考
妊娠・出産をサポートする 女性にやさしい職場づくりナビ:産休・育休はいつから?産前・産後休業、育児休業の自動計算新規タブで開く

こちらは厚生労働省が運営しているサイトで、類似したサイトはほかにもいろいろあります。実務上もこのようなサイトを使って、各期間を計算するケースが多いようです。法律上の期間を頭に入れておく必要はありますが、具体的な計算については、サイトを活用してもよいでしょう。

担当者が知っておきたい出産から復職までのスケジュール一覧

産休や育休にはさまざまな手続きが必要となります。どのような流れで進めていけばよいのか整理してみましょう。まずは、従業員から妊娠の連絡を受けるところから始まります。その後の流れは以下のようになります。

  • 1.
    出産予定日を確認して、産前休業を取得するかどうかを従業員に確認する
  • 2.
    産前休業を取得する場合には、産前休業開始に合わせて、「産前産後休業取得者申出書」を年金事務所に提出する
  • 3.
    無事出産した後は産後休業に続けて、育児休業を取得するかどうかを従業員に確認する
  • 4.
    育児休業を取得する従業員については、育児休業の開始予定日や終了予定日を通知する
  • 5.
    復職にあたって、時短勤務になるのかなど、復職後の諸条件を話し合って決めておく

スケジュールといっても、産前休業の期間や、育児休業の期間など人によってさまざまですので、おおまかな流れをとらえておけば十分です。実際には、休業期間中は社会保険料の免除がありますし、本人には給与の代わりに国から給付があるため、会社にとって金銭的な負担は基本的に生じません。

どちらかといえば、いつ復職できるか、復職後の業務配分をどうするかということがもっとも気になるところだと思います。これらの点については、休業に入る時点で、ある程度計画を立てておく必要があります。

届出書・申請書の書き方と手続きは?チェックリストつき

産休・育休には、さまざまな届出書が必要となります。

詳しくは後述しますが、どのような届出書が必要になるのかということをまとめました。届出書は大きく分けて、社会保険料関係のものと、給付関係のモノに分かれます。以下のリストを確認して、漏れなく提出するようにしましょう。

社会保険関係

タイミング 関係書類 提出先
産休に入ったとき 産前産後休業取得者申出書 年金事務所
予定より早く産休が終わったとき 産前産後休業取得者終了書
育休に入ったとき 育児休業等取得者申出書
予定より早く育休が終わったとき 育児休業等取得者終了書

給付関係

タイミング 関係書類 提出先
出産手当金の支給を受けるとき 健康保険出産手当金支給申請書 全国健康保険協会
育児休業給付金の支給を受けるとき 育児休業給付金支給申請書 ハローワーク
休業開始時賃金月額証明書

特に給付関係は、休業期間中の従業員の収入を保障するものですので、受給が滞ることは防がなければいけません。

そのうえ、育児休業給付金には、母子手帳や受給者の通帳コピー、出勤簿や賃金台帳といった書類の添付が必要となります。届出書や申請書についての書き方や具体的な手続きについては、各提出先のホームページにも載っていますが、確実に手続きを行うためには、各提出先の窓口で確認しながら行うとよいでしょう。

参考

社会保険料の免除について

産前産後休業期間や、育児休業期間中は社会保険料の免除も行われます。免除されるのは、従業員負担分と会社負担分の両方です。この期間は、被保険者、つまり従業員にとっては保険料を納めていたものとみなされますので、休業期間中も保険医療は受けられますし、将来の年金額にも影響しないように配慮されています。

具体的に保険料が免除される期間は、産前産後休業については、産前産後休業開始月から終了予定日の翌日の月の前月までです。出産予定日どおりに生まれて、産前産後休業をフルに取得すれば、14週間の休業となりますので、3ヵ月間は免除されることになります。

育児休業については、育児休業等開始月から終了予定日の翌日の月の前月が免除期間となります。極端な話、例えば4月15日に1日だけ育休を取得した場合でも、終了予定日の翌日の前月、つまり3月分の社会保険料は免除となります。

この制度の適用を受けるには、産前産後休業については、「産前産後休業取得者申出書」、育休については「育児休業等取得者申出書」という書類を年金事務所に提出しなければなりません。

これらの書類は、産前休業や育児休業の期間中に提出しなければなりません。ただし、万が一提出が漏れていた場合でも、後日提出することもできますので、詳しくは管轄の年金事務所に確認しましょう。

いずれにしても、この書類を提出しないと会社も従業員も保険料免除が受けられないので、必ず提出するようにしましょう。

「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」について

また、これに関連して、子どもが3歳になるまでの間に時短勤務を行ったことにより給料が下がる場合でも、将来の年金の受取額計算にあたって、時短勤務前の給料をベースに計算してもらえる制度があります。

これを「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」といいます。この制度の適用を受けるには、管轄年金事務所に、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」という書類を提出しなければいけません。

この制度は従業員の将来の年金計算のためですので、納付する保険料額に影響するものではありません。しかし、提出が漏れると従業員の将来の年金に影響してしまいますので、従業員のために忘れずに提出しましょう。

出産育児一時金、出産手当金、育児休業給付金などについて

産前産後休業期間中や、育児休業期間中は、会社の仕事自体は休んでいるため、会社は給与を支払う義務はありません。しかし、それでは休業する従業員の収入がなくなってしまいます。そのため、それぞれの休業期間中には、以下のような給付が国から行われます。

従業員が受給できる給付 金額 書類提出先
産前産後休業期間 出産手当金 1日あたり、支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×(2/3) 全国健康保険協会(または各健保組合)
育休期間 育児休業給付金 1ヵ月あたり、休業開始時賃金日額×支給日数の67%(育児休業の開始から6ヵ月経過後は50%)相当額 ハローワーク
  • 賃金日額とは、(直近6ヵ月の賃金の総額÷180)のこと

いずれの給付も、各提出先に書類を提出して初めて給付が行われます。特に、育児休業給付金については、出勤簿や賃金台帳など添付書類もいくつかあり、さらにハローワークが指定する期間内に手続きをしなければならないなどルールが細かく定められています。都度ハローワークに確認するなどして、漏れなく給付が受けられるように手続きをしましょう。

出産手当金は女性のみの制度ですが、育児休業給付金については、男女の差なく、育休を取得した人全員について適用があります。

また、出産については、出産育児一時金として42万円の支給もあります。ただし、この手続きについては、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽなどの健康保険組合に出産育児一時金の申請を行い、直接、出産育児一時金の支給を受けることができる制度(「出産育児一時金の直接支払制度)と言います。)もあり、医療機関等や本人が申請するケースが多いため、会社が必ずしも手続きを取るわけではありません(支給申請の書類にも、会社が記載すべき欄はありません)。

いかがだったでしょうか?従業員の産休・育休にあたり、関連する法律や整備すべきこと、手続きや書類などをご紹介しました。

企業の人事・総務担当者としても、産休・育休について理解し、従業員をサポートできるようにしていきたいですね。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版新規タブで開く

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