区分記載請求書とは?適格請求書との違いについて税理士・渋田貴正先生にインタビュー

2023/10/16更新

この記事の執筆者阿部桃子

2019年10月に消費税率が8%から10%に引き上げられ、軽減税率が導入されます。軽減税率の対象商品を扱う小売業や飲食業などでは、レジの改修や対応レジの導入などの準備が進んでいます。

しかしもうひとつ、大きな変化が訪れようとしているのをご存じですか?

2019年10月からは区分記載請求書等保存方式が、その4年後の2023年10月からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されるため、請求書や領収書などの書類の記載、そして、取引の帳簿記載が煩雑になるかもしれません。

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この区分記載請求書等保存方式、インボイス制度(適格請求書等保存方式)とはどのようなものなのでしょうか? 税理士の渋田貴正先生に伺いました。

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渋田貴正(税理士、司法書士、社会保険労務士)

税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。

渋田貴正

POINT

  • 2019年10月から「区分記載請求書等保存方式」が導入される
  • 課税事業者は、軽減税率対象のものは8%、それ以外は10%と、区分して記載しなければならなくなる
  • 2023年10月からのインボイス制度(適格請求書等保存方式)開始以降は、いっそう帳簿づけの手間が増すので、会計ソフトを導入しておくことがオススメ

ついに2019年10月から増税実施。何が変わる?

いよいよ2019年10月から、消費税が8%から10%に引き上げられます。軽減税率が導入され、食料品はじめ一部の品目は税率8%のままで据え置かれますが、外食した場合は税率10%になるとか。初めのうちは混乱しそうです。

渋田先生(以下・渋田):そうですね。食料品を扱う小売店や飲食店では、10月に向けて軽減税率に対応するレジを導入するなど、着々と準備を進めていると思います。

それでは、消費税増税に備えて、軽減税率の影響を受ける小売店や飲食店以外の個人事業主は、何も対策しなくて大丈夫でしょうか?

渋田:2019年10月の増税と同時に、まず区分記載請求書等保存方式が導入されます。課税事業者であれば、今までの請求書の記載事項(発行者の名前、取引年月日と内容、受領者の名前)に加え、軽減税率対象のものは8%、それ以外は10%と、区分して記載しなければならなくなります。

どんな風に区分して記載するのか、決まりはありますか?

渋田:何が10%で、何が8%なのか、ひと目でわかることが目的なので、税率ごとに品目を分けて書く、軽減税率の品目に「※」などの識別できる印を付ける、などで大丈夫です。

区分記載請求書等保存方式の請求書の記載例(※免税事業者、簡易課税事業者は除く)

領収書に運用税率のみを記載する場合

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弥生:軽減税率チェックリスト・飲食店の方向け より

なお、万が一お店のレシート、仕入れ先の請求書や納品書の数字等が間違っていたら、自分で書き直してしまっても大丈夫です。制度導入後は相手先の事業者の準備が間に合っていない可能性もあるので、多少は追記も発生するかもしれません。

課税事業者ではない、免税事業者の場合はどうでしょうか?

渋田:特にありませんが、消費税が10%に上がりますので、今後は売上に10%の消費税を乗せて請求することになります。

売上に消費税10%分を乗せたら、取引先に難色を示されないかと心配な事業者さんもいるかもしれませんね。

渋田:以前、消費税が5%から8%に引き上げられたときにもそのような議論がありました。でも、「消費税転嫁対策特別措置法」で、取引先が下請け会社に増税を理由に不当な値引きをさせないようにという法律の規制がかかりました。

今回も免税事業者相手だからといって、消費税を8%にしろと値引きを要求したり、支払わないようなことがあったら、「消費税転嫁対策特別措置法」で取り締まられるでしょう。ですから10%分の消費税を乗せて取引・請求しても、もちろん大丈夫です。

2023年10月から導入予定のインボイス方式のポイント

さらに、その4年後の2023年10月からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されるそうですね。それはどういった制度になりますか?

渋田:わかりやすく言うと、インボイス(適格請求書)とは、税務署が「適格」と認めた、お墨付きの請求書ですよ、という意味です。請求書のほかに、レシートや企業間の取引(BtoB)の請求書、納品書、領収書もこれに当てはまります。ここで重要なポイントは2つ。

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弥生:インボイス制度への対応 より
  1. インボイス(適格請求書)でなければ、課税事業者は仕入税額控除(売上の消費税額から経費、仕入れにかかった消費税額を引くこと)ができないということ
  2. インボイス(適格請求書)を発行するためには、事前に税務署へ「適格請求書発行事業者」としての届出を行い、登録を受ける必要があります。しかしこの「適格請求書発行事業者」は、課税事業者でなければならないということ

つまり免税事業者の場合は、適格請求書発行事業者とは認められないということですね。となると、どんなことが起きますか?

渋田:免税事業者が発行する請求書は「インボイス(適格請求書)」とは認められません。そのため、その請求書を受け取った相手先は、その支払いにかかった消費税額については仕入税額控除ができなくなってしまいます。

例えば税込で110円の商品を売ったとします。この場合だと……。

現行制度は……(2019年6月現在)
売上110円(消費税10円)
仕入 50円(消費税5円)←相手が免税or課税事業者でも仕入税額控除できる
消費税は10円-5円=差額の5円を納付
2023年のインボイス制度導入後は……
売上110円(消費税10円)
仕入 50円(消費税5円)←相手が免税事業者なら仕入税額控除ができない
消費税は10円納付
  • 消費税10%として計算

ただし、経過措置として以下の期間については、それぞれ以下の金額が仕入れ税額控除可能です。
2029年10月1日以降は、適格請求書発行事業者以外の者が相手の取引については、全額仕入税額控除できなくなります。

2023年10月1日~2026年9月30日 80% 上記の場合5円×80%=4円 消費税は6円納付
2026年10月1日~2029年9月30日 50% 上記の場合5円×50%=3円(端数切り上げ) 消費税は7円納付

このように、インボイス制度導入後は、課税事業者が免税事業者と取引したら、仕入税額控除ができず、その分、消費税を多く納付することになる訳です。

今回の例では、免税業者と取引する場合、仕入れの消費税額として、5円を支払っているのに、売り上げにかかる10円の消費税額を納めることになってしまいます。

課税事業者は免税事業者と取引すると、消費税の納付額が増えてしまう訳ですね。年間を通じて考えると、かなりの金額になるのではないでしょうか。

渋田:免税事業者との取引の割合にもよると思いますが、税金の納付額が増えることにはなるでしょう。それに相手先が免税事業者か課税事業者かで消費税の納税額が変わるので、計算も複雑になりますね。

さらに、課税事業者の帳簿の記載事項も増えます。

先ほど2019年の10月から区分記載請求書等保存方式が導入され、品目を8%と10%に分けて記す旨をお伝えしました。その4年後にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されると、取引先が適格請求書発行事業者か否かを分ける、という作業が追加されます。

さらに区分記載請求書等保存方式と異なる点として、インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、たとえレシートや請求書の数字や適格請求書発行事業者の登録番号が未記入などのミスがあっても、自分で追記することは認められません。つまり、相手が数字を間違っていたら、こちらで修正はできないので、相手にレシートや請求書を出し直してもらうことになります。

レシートが間違っていたのにそのまま申告したらどうなりますか?

渋田:故意でなければペナルティはありません。10~20円なのか、数千円のズレなのか、万単位なのかと金額を見て、インボイス(適格請求書)を出し直してもらうのか、そのまま行くのか、現場で判断することになるのではないでしょうか。

決算時期が終わったあとに気づいたら、頼みにくいですね。

渋田:それも金額によりけりで、多額の場合は修正申告してもらうことになるかもしれません。となると双方にとって膨大な作業になりますね。今まで手書きで帳簿付けをしていた方々も、いよいよ会計ソフトを導入するなどして備えないと、対応が難しくなるでしょう。

なぜインボイス方式は必要なのか?

とにかく、手間が増えて、処理も煩雑になるということですね。ではそもそもなぜ、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されることになったのでしょうか?

渋田:あくまでも私見ですが、政府がより多くの財源を確保したいという理由だと思われます。現在の状況を見ても、消費税を10%に上げてもまだ財源が不足していますし。ただ、さらに消費税を上げるとなると、国民の反感を買うことになりますね。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されれば、各事業者の消費税の計算が厳密になり、消費税の納税額が増えることが見込まれるからではないでしょうか。

なるほど。納税額を増やすことが目的なら、免税事業者が消費税を乗せる益税(事業者から預かった税金を国に納付することなく、事業者の利益とすること)に国がメスを入れるなんてことも今後はありうるのでしょうか? 具体的には、免税事業者は、売上に対して消費税を乗せられなくなることもあるのでしょうか?

渋田:免税事業者の方たちも、打ち合わせ代をはじめ、交通費とか取材費とか、消費税を払っている訳ですから。今後は税抜きで請求しなさい、と国が認めることとなったら、それこそ不均衡ではないでしょうか。
そうやって免税事業者の手取り金額に影響が出れば、免税事業者側の所得、そして所得税にも影響が出てしまいますから。逆に納税額が減るという事態にもなりかねないのではないかと思われます。

インボイス制度導入までの4年間で何をすべきか?

インボイス制度導入まであと4年です。その間に準備することはありますか?

渋田:2021年10月1日から、税務署で適格請求書発行事業者の登録受付が開始されます。2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されると同時に、適格請求書発行事業者になっておく必要があれば、2023年の3月31日までに登録の申請をしてください。

課税事業者になるには、2年前の売上が1,000万円以上など、諸条件があると思います。2021年の10月1日の時点で課税事業者じゃなくても適格請求書発行事業者の登録ができるのでしょうか?

渋田:適格請求書発行事業者は課税事業者でなければなりません。その時点では免税事業者でも、申請開始時期から2年後のインボイス制度が導入される頃には、売上が1,000万円を超えて課税事業者になっているということも考えられますからね。

ただし、提出時点で免税事業者である場合は、適格請求書発行事業者の登録を行う場合には、併せて課税事業者の選択を行わなければなりません。

この場合、例えば個人事業主などは1月1日から12月31日が一つの課税期間となるのが通常ですが、この時ばかりは、2023年10月1日から2023年12月31日を一つの課税期間として消費税申告することになります。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入にあたっては、仕入税額控除ができないからと、免税事業者が取引先から契約を切られるようなケースが予想されます。そういう事態を避けるために、インボイス制度が導入される2023年より前に、売上が1,000万円以下の免税事業者でも課税事業者になることを選択しなければなりませんか?

渋田:まず、インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入後、すぐに仕入税額控除が100%できなくなる訳ではなく、経過措置が取られています。

具体的には、免税事業者からの仕入れであっても2023年10月からの3年間は80%、2026年10月からの3年間は50%の仕入税額控除が可能とされています。

では、免税事業者が急いで課税事業者にならなければいけない、ということではないのですね。

渋田:はい。もしすべての事業者が課税事業者にならなければいけないとなると、さすがに影響が大きすぎる気がします。

個人事業主にこれ以上負担が増えるようなら、副業やフリーランスなど、多様な働き方を選択しようという人が減ってしまうし、スタートアップ企業であっても最初から大手と取引するために課税事業者になりなさいと言われても、厳しいですね。

インボイス制度(適格請求書等保存方式)が今後どうなっていくのか? 課税事業者も免税事業者も、動向をしっかり見守ったほうが良さそうですね。

渋田:はい。経過措置終了後はどうなっていくのかなど、先行き不透明な部分はまだまだありますから。ただ、帳簿記載などの事務作業は確実に面倒になりますので、手計算や表計算ソフトでは、対応は厳しいでしょう。会計ソフトを使うなどそのあたりの準備はしっかりと進めておきましょう。

本日はどうもありがとうございました。

撮影:塙薫子

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この記事の執筆者阿部桃子

早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。

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