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「当時、起業したのは日本の働き方そのものを変えるため」小室淑恵氏に聞くワークライフバランスの変化と今後の展望

公開日:

執筆者:阿部桃子

「当時、起業したのは日本の働き方そのものをガラリと変えるため」小室淑恵氏に聞く、ワークライフバランスの変化と今後の展望

「働き方改革」「ワークライフバランス」という言葉が当たり前のように聞かれるようになった現在。社会の変革の先駆者となったのは、2006年に株式会社ワーク・ライフバランスを設立した小室淑恵さんです。

この14年間、1000社余りの「働き方改革コンサルティング」を手掛け、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員として長時間労働の是正と女性活躍を訴えてきた小室さんに、ご自身の起業について、そして日本のワークライフバランスの変化や今後の展望について伺いました。



売上低迷、人間関係の悪化......長時間労働がまねく経営側のリスク

売上低迷、人間関係の悪化.........長時間労働がまねく経営側のリスク

――最近では当たり前のように使われる言葉となっていますが、改めて「ワークライフバランス」とは何でしょうか?

バランスと聞くと、「1:9」「3:7」といったワークとライフの割合をイメージされる方も多いようですが、そうではありません。

ライフが充実するからこそ、ワークにおいて良い成果が出せるというのがワークライフバランスの本質。ワークライフシナジー(相乗効果)と言ったほうがいいかもしれません。

人間の脳は朝起きて13時間しか集中力が持ちません。そのあとは、なんと酒酔い運転とおなじ集中力です。著しく生産性が落ちている時間帯に、割増残業代を払うのですから、業績が上がるわけがありません。

十分な睡眠を取って、短い時間で高い成果を出せる状態を企業もサポートすることによって、仕事の成果を出す、そのサイクルがしっかり回っているのがワークライフバランスだと考えています。

――そうなると、ワークライフバランスの正しい意味を理解していない方がいるかもしれませんね。

はい。そのため、ワークライフバランスなんて気にしていたら、「売上が下がる」「お客様に迷惑がかかる」「社員の士気が下がる」と思われている方もいます。つまり、「長時間労働は勝つための手段」だと思って、それを失うのが怖いと思われているようです。

ところがむしろ、長時間労働と睡眠不足によって業績は下がっているのです。集中力が下がると、人はミスや事故を起こし、そこから取り返しがつかないブランディングの低下を起こしてしまいます。実際、管理職が把握していないだけで、現場ではミスが多く起きていて、お客様からクレームが来ている場合も。それが売上低迷の原因であるにも関わらず、もっと働いて売上を上げろと叱責して悪循環に。

つまり、長時間労働が「負けている」原因になっているんです。長時間労働を捨てれば、集中力が戻ってきます。すると、ミスや事故が起こらなくなり、お客様に対して謝りに行ったり、不利益を出したからとその穴埋めをしたりするといった無駄な時間がなくなり、純粋に売上増に繋がる仕事ができる状態になります。なによりいい状態で働けることは社員のモチベーションアップと定着に繋がります。

私たちは10年間で1000社くらいの働き方改革のコンサルティング業務をしてきました。コンサルというと、その会社に行って、この仕事をアウトソーシングしたほうがいい、組織図をこう変えなさいとバサバサ切っていくイメージがあるようですが、私たちのコンサル手法はコーチングに近いです。

具体的には、長時間労働の働き方の癖と、それを助長してしまう評価制度と人間関係に着眼し、なぜ長時間労働をせざるを得ない状態になっているのか、ご自身で気づいていただいて、自分たちで改善して行くプログラムを用意しています。

従業員2~3万人規模の会社さんでも、数チーム選び、1期8カ月間伴走して行きます。その途中段階で、会社の経営陣や役員さんに中間報告や最終報告に聞いてもらいます。

――中間・最終報告会での経営陣や役員さんの反応はいかがでしょうか?

衝撃を受けられますね。そんな理由で長時間労働になっていたのか!と。役員さん自身が原因であることが非常に多いのですが(笑)。

それまで役員さんたちは、長時労働の理由を、うちの業界だから仕方がない、取引先がこうだから仕方がない、と外部の責任と考えてきたケースが多いんです。でも実際は、社内会議や資料の多さ、そんな理由もたくさんあります。

それによって社員が疲弊し、流出していると分かると、役員さんから自分たちのあり方も変えようという声が上がってくるようになります。

また、今までの長時間労働をすればするほど残業代がもらえ、昇進できるというシステム自体が、昭和のモデルだったことにも気づきます。そこから、評価形態も変えよう、ビジネスモデルをイノベーションして行こうと考えてくださるようになります。

1期でそこまでくれば、2~3期目には制度変更をしたり、より多くのチームにトライアルをしてもらい、3期目には私たちが手を放してもその企業の方々でほぼ自走できるようになります。

――自ら気づきを与えることが大切なんですね。最近の事例はありますか?

例えば現在2期目のコンサルに入っている住友生命保険。今まで営業職といえば、契約を取れば取るほど収入は上がるので、みんなエビ反り型に残業をしていました。

しかし、どんなに営業成績が1位でも、労働時間が一定量を超えたら1位になれないという評価制度に変更したのです。

その結果、営業職の方たちも、お客様のところに何回も足繁く通うのではなく、お客様に1回で分かっていただけるにはどうしたらいいのか?と生産性を意識するように。残業が当たり前だった社風もガラッと変わってきました。

小室さん直伝!残業を無くすためのノウハウ

小室さん直伝!残業を無くすためのノウハウ

――クライアントありき、納期ありきの仕事ですと、残業が発生することもあるかと思うのですが、対策について教えていただけますか。

残業が発生する最大の要因は「仕事の属人化」。その人しか扱えない情報、その人しかできない仕事のやり方をしていたら、その人が仕事を抱え込むことになってしまいます。そうならないためには、徹底的に「仕事の権限移譲」をすることです。

弊社では普段からクライアントの情報を共有しておき、コンサルティングの手法も標準化しています。そうすれば、いざというときに助けあえます。

10人のうち3人が納期を迎えているならば、あとの7人全員で助けたら深夜の残業にはならないはずです。助けた側が納期を迎えたタイミングには、助けられた側がサポートします。それができるために、普段から仕事を見える化し、共有化しているのです。

――「いざというとき」のノウハウがたくさんあるんですね。

例えば、弊社でよくあるのが「朝起きたら子どもが熱を出していた!」しかも、その社員が名古屋でコンサル業務あり!なんていうことです。

そうなったら、朝の8時半くらいにハングアウト(チャットやビデオ通話ができるアプリ)で、「誰か名古屋行けますか?」と調整が始まります。すると、「私は東京で仕事の予定でしたが、今名古屋の近くにいます。誰か東京の仕事を代わってくれれば名古屋に行けます!」と名乗り出ます。「それじゃあ、ぼくが東京のその仕事を代わりましょう!」という感じで次々にバトンを受け取って行って、9時くらいにはすべてOKとなり、みんながそれぞれの仕事に行くという体制を作っています。

――毎朝全員で調整するのですか?

いいえ、そのときハングアウトを見た人です。だいたい10~20人くらいでしょうか。弊社には、育児中の人も介護中の人もいますし、有給を取る人、午後から出社の人もいます。なので、朝のタイミングでそのハングアウトに気づくことができるのは30人中20人くらいですからね。

――まさに三者三様ですね。

静岡や群馬に住んでいて、新幹線通勤をしていて、出社する必要のない日は在宅勤務にしている人もいます。家族の介護や看病で自宅を離れづらいとのことで、大きな会議のとき以外は自宅勤務の人もいます。

さまざまなワークスタイルを取り入れることで、多様性をできる限り尊重してあげたいと考えています。

――在宅勤務のメンバーとのコミュニケーションはどうされていますか?

「朝メール.com」というツールを利用します。これは、朝自分の仕事を15分単位でブレイクダウンして、メンバーをとシェアし、それを夜振り返るというもの。

朝一番で共有することによって、1日の仕事を一緒に仕事をする他のメンバーとパズルのように上手く組み合わせ、みんなで協力して仕事を進めるイメージです。

この朝メールを出していないと在宅勤務は認められないというルールにしています。朝一番に、自分の仕事に優先順位付けをして組み立てる能力があって、はじめて在宅勤務は可能なので、権利と義務の関係だと考えています。

フリーランサーの働き方改革は「時間自律性」が必要!

――スモビバ!読者には個人事業主やフリーランサーが多いのですが、そういう方たちはどのようにワークライフバランスを整えたらよいでしょうか?

組織の中にいないフリーランサーだからこそ、ワークライフバランスを自分で意識することが大切だと思います。そのとき必要になってくるのは、「時間自律性」。朝一番に自分の今日1日の仕事を戦略を持って決めて、夜に振り返るという習慣を持つことをオススメします。

クライアントや仕事のパートナーに向けて、仕事の見える化をして行くと、仕事相手としても信頼されます。

クライアント側がフリーランサーと仕事をしていて心配になるのは、ご自身のキャパシティー以上の仕事でも引き受けてしまって急に体調を崩されてしまわないか?というところです。不当な短納期を要求されたからと訴えられてしまう可能性もあります。

朝メールのようなツールで自分の一日をデザインし、他に抱えている案件や、現在の進捗状況をクライアントとも共有しながら、時間自律性の高いフリーランサーには安心して仕事をお願いすることができます。

――なるほど。これは、新しい視点かもしれません。フリーランサーであっても、ワークライフバランスが整っていることが、クライアントからの信頼にも繋がるのですね。いろいろなヒントをいただきました。ありがとうございました!

小室淑恵こむろ よしえ

小室淑恵

株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
1000社以上の企業への働き方改革コンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げ、組織のコミュニケーションが増えるコンサルティング手法に定評があり、残業削減した企業では業績と出生率が向上している。 「産業競争力会議」民間議員など複数の公務を歴任。2児の母。「働き方改革」(毎日新聞出版)など著書多数。

photo:ワーク・ライフバランス社提供、Getty Images

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この記事の執筆者

阿部桃子
阿部桃子

早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。

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