商標権や意匠権、特許権や著作権といった知的財産権の侵害リスクは、全てのスモールビジネス事業主にとって「他人事」ではない問題です。知的財産権侵害リスクの概要について正しく理解し、これらを合理的に回避・軽減するための基本知識について解説します。
「知的財産権」とは、著作権や特許権など、人の知的創造活動に関して与えられる権利。「自分には関係ない」と思っている人も多いのですが、事業を行う中で他社の知的財産権を知らず知らずのうちに侵害してしまう...というのは、全てのスモールビジネス事業主にとってあり得る事態です。例えば、ある技術を開発して商品を製造し、それをウェブ上で販売する場合であれば
(※以下は、侵害しているかもしれない『知的財産権』です。)
と、いった具合です。「知らず知らず」のうちに、他社の様々な知的財産権を侵害してしまうかもしれないのです。スモールビジネス事業主にとって、こうした知的財産権の侵害リスクについて理解し、対策を取ることは非常に重要です。
他社の知的財産権を侵害してしまうと、損害賠償などのペナルティを受けることになってしまいます。そして、こうしたペナルティには、二つの特徴があります。
特徴1:商品販売や販売用サイトの公開を禁止されるおそれがある
損害賠償だけでも「痛い」ものですが、差止や刑事責任は、事業の根幹を揺るがしかねない、非常に重要な問題です。
特徴2:「知らず知らずのうち」だとしても責任を免除されない
一般論としては、「わざと(故意)」や「うっかり(過失)」の場合に限って「ペナルティ」を科せられるというのが、法律の原則です。しかし知的財産権侵害の場合、この原則と異なる部分があります。「知らず知らずのうち」だとしても、差止を受けてしまうのです。
では、知的財産権の侵害リスクは、どうすれば回避できるのでしょうか。
知的財産権は、基本的に「早い者勝ち」です。従って考えなければいけないことは、「自社は間違いなく自分でそれを作ったのだけど、既に同じようなものを作っている人がいるのではないか」ということです。
そこで、既に同じようなものを作って権利化している人がいないか探す、というのが基本方針になります。※以下、基本的な権利の特徴と調査方法です。
既に権利を持っている会社が存在していた場合、そのままでは知的財産権の侵害になってしまいます。諦めるか、その相手と交渉してライセンス契約を結んで貰うか、どちらかを選ぶことになります。
そして、ライセンス契約を結ばざるを得ないならば、早い方が自社にとって有利です。
例えば、自社が既に商品開発や宣伝を行い、商品を店舗に並べた段階で、実はその商品が他社の特許権を侵害していた、と判明した場合について考えてみましょう。この場合、そのままでは商品を回収して廃棄する必要があります。金銭的ダメージも大きいですし、評判もガタ落ちでしょう。たとえ割高でもどうにかライセンス契約を結んで欲しい...と考えざるを得ません。相手もそのことは分かっていますから、強気に高額のライセンス料を提示してくる可能性が高いと言えます。
とはいえ、調査を行うにはどうしても時間がかかります。特に弁護士や弁理士などの専門家に依頼する場合には、ある程度費用もかかってしまいます。「どの段階で、どこまでコストをかけて調査を行うか」というのは、基本的には経営判断です。知的財産権の侵害リスクを正しく理解し、経営判断として適切な調査コストをかけることが重要なのです。
photo:Thinkstock / Getty Images
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この記事の執筆者
モノリス法律事務所 代表弁護士。東京大学法科大学院卒業。起業支援など企業法務を得意としており、中小企業などのスモールビジネス事業主に対する、資金調達や労働問題などを含む各種の法務アドバイスなどを行っている。また、エンジニアやテック系ライター、ITベンチャー執行役員の経験がある元IT関連フリーランス・理系出身者であり、特許法などの知的財産法や、電子商取引・ドメインを巡る紛争など、IT法にも強い。個人サイトは「tokikawase.info」、Twitterは@tokikawase。
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