独立・起業後は会社員時代に自分が開拓した顧客から契約を取れるのか?

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独立・起業後は会社員時代に自分が開拓した顧客から契約を取れるのか?

会社を辞め、個人事業主としての独立や起業をした直後は、顧客を見つけるのがなかなか難しいものです。会社員時代の顧客から契約を取れれば…と思う人も多いはずですが、不正競争防止法という法律や、雇用契約などの秘密保持義務に注意しなければなりません。


POINT
  • 会社の顧客情報は「営業秘密」になりえる
  • 「営業秘密」なら、「不正な目的」での使用は違法
  • 雇用契約や就業規則の秘密保持義務との関係でも注意が必要

顧客情報は「不正競争防止法」で保護されている

顧客に関する情報は、会社員時代に勤めていた会社にとっての「営業秘密」に該当する可能性があります。そして、「営業秘密」に該当すると、これを不正な方法で持ち出したり、不正な目的で使用したりすると、「不正競争防止法」という法律上で違法になってしまいます。

また、顧客情報の利用は、会社員時代の雇用契約や就業規則などの「秘密保持義務」との関係でも問題になるかもしれません。

独立・起業直後の人が押さえておきたい、「営業秘密」「秘密保持義務」の概要を、特に顧客名簿にフォーカスして解説します。

まず、顧客情報といった秘密を保護している法律は、「不正競争防止法です」。不正競争防止法では、以下のような3点全てにあたる情報が「営業秘密」とされます。顧客情報も、以下の条件を全て満たす限り「営業秘密」なのです。

  • 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  • 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
  • 公然と知られていないこと(非公知性)

過去の裁判では、男性用かつらの顧客情報について、路上等で勧誘するのは困難な業種だから顧客情報は「有用」、という判断をされたものや、投資用マンションの顧客情報について、一般に知られている名簿ではないから「非公知」、という旨を判示したものがあります。ただ、このようなある意味で特殊な業種に限らず一般論としても、顧客情報は多くの場合「有用」で「非公知」と言えるでしょう。

問題なのは、「秘密管理性」です。
施錠されたロッカーなどに保管されていれば条件を満たすことが多いでしょう。ただ実際問題として、顧客情報は、連絡を行うため社外に持ち出されたり、社員の携帯電話に保存されたりしていることも多いはずですね。過去の裁判では、「たしかに持ち出されたり携帯電話に保存されたりしていたが、それは営業などを行うためのことであり、秘密管理されていたと言える」という旨を判断したものなどがあります。

「秘密管理性」は、なかなかクリアな判断が難しい条件です。
裁判では、この後説明するように、秘密保持契約を結んでいたか否かなど、様々な事情が総合的に考慮される傾向があります。

同じ業種で独立・起業し顧客を勧誘すると法律違反のおそれ

以上のようにして「営業秘密」に該当すると認められた情報に関しては、以下のような行為などが禁止されます。

  • 不正な手段を使って取得すること
  • 不正な目的のために利用すること

「不正な手段」とは、例えば、権限がないのにこっそりと社内から盗み出したりした、ということ。したがって、自分が担当していた顧客の情報、ましてや自分が開拓して教えて貰った顧客情報であれば、「不正な手段」で取得したとは言えません。

問題なのは、「不正な目的」の方です。
会社員時代に勤めていた会社の顧客情報を利用して勧誘を行う際、「あの会社は酷い会社だ」などと批判をしていれば、又は、「あの会社には倒産のおそれがある」などと根も葉もないことを言っていれば、「不正な目的」と判断されやすいと言えます。ただ、こうした言動を伴わない勧誘であっても、同じような業種で独立・起業するだけで、顧客を奪う「不正な目的」である、と判断されるケースも多いのです。

秘密保持義務違反にならないかにも注意が必要

このように、営業秘密該当性や、「不正な目的」の判断には、どうしても曖昧な部分が残ります。

ただ、不正競争防止法と別に、もう一つ気をつけなければいけないのが、前に勤めていた会社に対する「秘密保持義務」です。多くの会社は、不正競争防止法に上記のような「曖昧さ」があることを前提に、従業員に対して、雇用契約や就業規則で秘密保持義務を規定しています。そして、以下のような特徴があることが多いです。

■何が「秘密」なのか明確に規定されている

例えば、「顧客情報は秘密に含まれる」と明確に規定されていたら、「施錠されていない棚に保管されていた」などと反論しても無意味であり、上記の「秘密管理性」についての曖昧さがない、と言えます。

■「利用」以前の付随的な義務も規定されている

例えば、顧客情報を「利用」することだけでなく、「複製すること、返却せずに所持していること自体を禁止する」といった規定です。こうした規定があると、「不正な目的」があってもなくても、所持自体が義務違反となってしまいます。

前に勤めていた会社の顧客情報は、たしかに魅力的な情報です。
しかし、独立・起業後にそれを利用する場合は、その情報が「営業秘密」に該当しないか、利用することが「不正な目的」と言われないか、そもそも雇用契約や就業規則で所持や複製自体も禁止されていないか、といった点を確認する必要があるのです。

photo:Thinkstock / Getty Images

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この記事の執筆者

河瀬季
河瀬季

コスモポリタン法律事務所(東京・音羽)所属。東京大学法科大学院卒業。起業支援など企業法務を得意としており、中小企業などのスモールビジネス事業主に対する、資金調達や労働問題などを含む各種の法務アドバイスなどを行っている。また、エンジニアやテック系ライター、ITベンチャー執行役員の経験がある元IT関連フリーランス・理系出身者であり、特許法などの知的財産法や、電子商取引・ドメインを巡る紛争など、IT法にも強い。個人サイトは「tokikawase.info」、Twitterは@tokikawase

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