【イベントレポート】ミュージシャンによるミュージシャンのためのお金のセミナー

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執筆者:安田博勇

【イベントレポート】ミュージシャンによるミュージシャンのためのお金のセミナー

東京・京王井の頭線の新代田駅からほど近い場所にあるライブハウス「新代田FEVER」で「ミュージシャンによるミュージシャンのためのお金のセミナー」と銘打たれたイベントが2018年2月に開催されました。2015年の初開催以来の「恒例イベント」は、今年で4回目。ミュージシャンが悩みがちなお金の問題はどんなものなのか……好評のため大阪でも追加開催されたこのイベントの模様を採録します。


POINT
  • ミュージシャンの音楽活動に使える補助金は結構ある
  • バンド活動は、民法における「組合契約」で成立している
  • バンドマンが確定申告する場合、バンドの帳簿と、メンバー各々の帳簿、それぞれを作成していく必要がある

ミュージシャンが申請できる補助金って、ホントにあるの?

ミュージシャンが申請できる補助金って、ホントにあるの?

行政書士・武田信幸さんが毎年主催している「ミュージシャンによるミュージシャンのためのお金のセミナー」にお邪魔してきました。

会場は東京・新代田駅近くにあるライブハウス「新代田FEVER」。第4回目となる今回は、補助金のこと、契約書のこと、そして確定申告のこと......という3テーマが用意され、それぞれのテーマに3名の専門家が登壇。3名とも「ミュージシャン」としても活動しており、ご自身の体験から、そして専門領域からその勘所を指南しました。

最初に登壇したのはイベント主催者でもある行政書士・武田信幸さん。テーマは「補助金」です。武田さん曰く「ミュージシャンの音楽活動に使える補助金も結構ある」のだとか。武田さんがギタリストを務めるインストロックバンド「LITE」(ライト)の場合、海外ツアーに行くことも多く、年間200万円前後の支出を補助金で捻出しているそうです。

ミュージシャンが申請できる補助金って、ホントにあるの?

実際にLITEが活用しているのが、特定非営利活動法人 映像産業振興機構による「J-LOP4」です。

J-LOP4は経済産業省が運用している補助金制度で、映画・テレビ番組・アニメといった日本コンテンツを助成対象としています。(JLOPは毎年補助金名が変わります。昨年はJLOP4ではなくJLOP」でした。補助内容は例年ほぼ同様です)コンテンツの「海外展開時」の「ローカライズ」(字幕・吹替えなど)、「プロモーション」(国際見本市への出展、PRイベント実施など)に対して補助金が支給され、補助率は「対象経費の2分の1以内」が基本となっています。

武田さんの場合は、ご自身が所属するバンド「LITE」のアメリカツアーに対しての補助金を申請。J-LOP4からの採択を経て、ツアーを終えた後に報告(領収書なども保管)すれば補助金を獲得できます。ちなみに申請できる金額は原則として上限は設けられていませんが、これまで「1,000万円を超える経費は採択された実績がない」とのことでした。

「渡航費はもちろん、ホテルの宿泊費、輸送費(レンタカー)、翻訳費、法務費、PAさん(音響スタッフ)などのスタッフ費等々、だいたいこの補助金から捻出できると思います」

しかし、この制度、申請できるのは法人のみ。会場に集まったミュージシャンたちが落胆しそうになるや、武田さんはすかさず「個人で運営するバンドマンも諦めてはいけません!」。

「法人であるライブハウス、レーベル、出版社、イベント会社等に、プロモーションに主体的に関わってもらい申請者になってもらうんです。申請時にはその法人の決算書も必要になりますから、申請法人の売上金額と、ツアー中で実施する公演の予算感とが見合っているよう注意しましょう」

武田さんはJ-LOP4の他にも、音楽や映像などの芸術活動に対しての助成金が充実しているアーツカウンシル東京、現代芸術振興助成制度、かけはし芸術文化振興財団や、国内外で文化交流活動にかかわるさまざまな支援プログラムを展開している国際交流基金などの補助金・助成金を紹介しました。

口約束でバンドを結成。契約上はどうなるの? ミュージシャンの法律トラブル

口約束でバンドを結成。契約上はどうなるの? ミュージシャンの法律トラブル

続いて登壇したのは、弁護士の藤森純さん。藤森さんは「ある架空バンドの法律トラブル」を例に、来場者へいろいろな法律トラブルについて注意を喚起しました。

そもそもバンド活動は、民法における「組合契約」(民法667条1項)で成立しているのだとか。組合契約とは「各当事者(バンドメンバー)が出資をして、共同の事業を営む契約」のことで、「出資」はお金に限らず「労務の提供」もOKとされています。

「皆さん気になるのは『なら、契約書はどうするの?』だと思いますが、原則として口約束でも契約は成立可能です。バンド結成にわざわざ契約書を交わすことは少ないでしょうが、バンド結成は組合契約であること、そして、後から想定されるリスクとコストを比較し勘案しながら、場合によっては契約書を作成しておいたほうがよい場合もあることをおさえておいてください」

また、藤森さんはバンドが事務所とマネジメント契約を結ぶときの問題点について来場者へ注意喚起しました。それは、契約満了(あるいは解除)後の「独立」について......。事務所とのマネジメント契約の締結時に契約内容をしっかりと確認しておかないと、後々トラブルに至ることがあるというのです。

「事務所とマネジメント契約を結んだときに、事務所との間でバンド名や芸名の使用について定められることがあります。また事務所がバンドの名称を事務所の費用で商標登録することもあります。マネジメント契約が解消されたときにバンド名や商標の取扱いをどうするかを定めておかないと、事務所を離れた後で自分たちのバンド名を使えなくなるといったことも起きてしまう可能性があります。例として、多くの芸能事務所で実際に使われている契約書の雛形の規定を挙げますと、『芸名に関する一切の権利は甲(筆者注:甲は事務所を指します)に帰属します』とされています。独立するなどして、その芸名を使用し続けたいときでも、『事前に書面による甲(筆者注:甲は事務所を指します)の承諾』が必要です」

「そのほか、バンド側が事務所を辞めたいと言ったときに、事務所側に1回にかぎり契約期間を延長する権利が認められていることもあります。このような規定があるのは、事務所がバンドの売り出しのためにいろいろと費用を負担し、バンドが売れてきたから、そろそろ負担した費用を回収しようという段階になったときに、急にバンドが事務所を辞めると事務所としては非常に困るという事情があるからなのですが」

口約束でバンドを結成。契約上はどうなるの? ミュージシャンの法律トラブル

さらに筆者が興味深かったのは「音楽にまつわる権利」についてです。

そもそも「音楽を作る」ことには、楽曲(詞・曲)を作ること、音源(原盤)を作ることの2つの側面があり、音楽にまつわる権利は主に以下の3つで構成されるといいます。

  • 作家による「詞・曲」を対象とした「著作権」
  • アーティストの「実演(歌唱、演奏)を対象にした「実演家の権利」
  • レコード製作者による「原盤」を対象とした「レコード製作者の権利」

「音楽業界にいる方ならご存じの方も多いことだとは思いますが、著作権譲渡契約、マネジメント契約、原盤契約など、さまざまな契約の種類があり、契約の対象となる権利も異なってきます。これら3つが別々の権利だと認識することは、契約トラブルを避けるという意味でもとても大事なことです」

ミュージシャンが確定申告するときに気をつけておきたいこと

ミュージシャンの確定申告

最後に登壇したのは『スモビバ!』でもおなじみ、税理士の宮原裕一さん。テーマは「ミュージシャンの確定申告」です。宮原さんは所得税計算の基本的なしくみ、経費精算などを丁寧に解説したうえで、「バンドマンならでは」といえる確定申告のポイントを解説しました。

【宮原先生の関連記事】
ミュージシャンの確定申告ガイド

第2部・藤森さんのお話にもあったとおり、バンドマンは組合契約でつながれた事業体です。そのことからバンド内では「これはバンドの経費か、個人の経費か」という諍いが起こりがちに。スタジオ使用のお金、サポートメンバーへのギャラの支払い、メンバーそれぞれの機材の経費、報酬等々、どのように確定申告すればよいのでしょうか。

「共同事業体とはいえ、バンドの代表者が他のメンバーに給与を支払っているわけではありませんよね。あくまでバンドメンバーのそれぞれが個人事業主。だから4人組バンドで取り分を4等分と決めたとしたら、バンドで得た収入は4等分、バンドで支払った経費も4等分。そのうえでメンバー各々が確定申告を行わなければいけません」

このときのポイントは「すべてをまとめて計算しない」ことだと宮原さん。

「そのときの経費がバンドのものなのか、個人のものなのかを判断し、別々に集計するのが基本です。そのためにもバンドの帳簿と、メンバー各々の帳簿、それぞれを作成していく必要があります」

ほかにもバンド活動にはこんな悩みが生じがち

ほかにもバンド活動にはこんな悩みが生じがち

ほかにも宮原さんは、バンド活動で生じがちなこんな疑問・お悩みに答えてくれました。

●Tシャツなどのグッズ販売は、どう処理すればよいの?

「音源やグッズの販売などバンドには小売業の側面もありますから、棚卸しが伴います。売れていない商品の仕入代金はその年の経費にできませんから、年末の時点でどのくらいの売れ残りがあるのかを計算し、売れ残った分の原価を経費から除外するようにしましょう」

●バンド活動をしている分の収入を会社に知られたくない!

「副業OKの会社で、自分で確定申告をしている場合、特別徴収としてその会社の給与から住民税が差し引かれ、会社に届く住民税の通知からバンドの収入を知られてしまうことが起こりえます。この場合は確定申告時、申告書2枚目の右下にある『住民税の徴収方法の選択』の『自分で納付』にチェックをいれましょう。これでバンドにかかる分の住民税は自分のもとに届くようになります」

●アルバム制作費をクラウドファンディングで募った。申告はどうすれば?

「最もポピュラーな『購入型(支援者にリターンを返す方法)』のクラウドファンディングの場合......。これは明確なリターンが生じていますから、モノの販売あるいはサービスの提供にあたります」

  • CDやDVD、グッズのリターン......モノの販売
  • ライブへの招待、写真撮影......サービスの提供

「ですので、基本的には『事業の売上』としてカウントすれば大丈夫です。ただしここで注意したいのは、かなり大きな額の収入を得ますから、消費税の課税事業者になるケースがあること」

その年の売上が1,000万円を超えたら、翌々年は課税事業者として消費税の申告・納付が必要になります。

「またクラウドファンディングで生じがちなのがタイムラグです。例えば2017年に募集をし、その年のうちに入金されました。しかしリターンを返すのは翌年......。この場合、入金は翌年に生じるリターンの『対価』だと捉えてしまってOKです。年内に取引が終了してないことになるので『前受金』として翌年にまわし、リターンを行ったときに売上にしましょう」

ほかにもバンド活動にはこんな悩みが生じがち

最後は、宮原さん監修の『個人事業主・フリーランスのための青色申告』などの書籍紹介がありました。これにて盛りだくさんのイベントは閉幕。

音楽業界とはだいぶ遠い位置にいる筆者からすると、意外なお話ばかり......。事業の業種・職種のそれぞれに、種々のお金の問題があるものだと勉強になりました。

武田 信幸 (たけだ・のぶゆき)
2014年に行政書士試験合格。音楽活動を継続しつつ同年開業。起業のスタート地点である創業融資支援を専門とし、開業資金の調達を支援するだけでなく、起業後は会計記帳代行という継続的フォローを通して経営のアドバイスを行い、経営者の良き相談役として「持続的な経営」を目指すサポートを行っている。
行政書士法人GOAL HP

藤森 純(ふじもり・ じゅん)
企業法務系法律事務所勤務弁護士、駿河台法律会計事務所(第一東京弁護士会)パートナー弁護士を経て、 平成26年9月に弁護士法人品川CS法律事務所設立に参加。共同代表。
弁護士法人品川CS法律事務所 HP

宮原 裕一(みやはら・ゆういち)
1972年生まれ。税理士。弥生認定インストラクター。弥生会計を10年以上使い倒し、経理業務を効率化して経営に役立てるノウハウを確立。弥生会計に精通した税理士として、自身が運営する情報サイト「弥生マイスター」は全国の弥生ユーザーから好評を博している。
宮原裕一税理士事務所 HP

photo:塙 薫子
撮影協力:新代田FEVER

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この記事の執筆者

安田博勇
安田博勇

1977年生まれ。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

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