近年「ブラック企業」「セクハラ」という言葉がマスコミなどの間でよく取り上げられていますが、どんなことをしたらセクハラと呼ばれてしまうのでしょうか。こちらの記事「要注意!ブラック企業にならないために」で代表的な事項を挙げていましたが、今回はセクハラや性別役割分担意識について解説したいと思います。またセクハラ防止のために会社として取り組んでおきたいことについてもお話します。
職場のセクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、一般的に「職場における労働者の意に反する性的言動」と言われています。注目したいのは「労働者の意に反する」という受け手の感覚を重視する点です。
これに対しパワハラは「業務の適正な範囲を超えて」いるかどうかがポイントになります。どちらも判断基準は難しいのですが、セクハラの方がより判断が難しいと感じる方が多いのではないでしょうか。
企業においては「従業員にセクハラをさせないようにするには?」「セクハラ防止にはどのような体制が必要なのか?」などが課題になっています。これらをクリアにするための第一歩はセクハラに対する共通認識を社内で持つことです。
では具体的にどのような行動がセクハラに該当するのでしょうか。例えば以下のものはいかがでしょうか。
一見すると、①から④まですべてがセクハラである、と言えるかもしれません。しかし相手や状況によってはすべてセクハラではないと言える場面もあるでしょう。
つまり「何をされたか」よりも「誰にされたか」が問題になるのです。これは、日常のコミュニケーションのとり方によって大きく左右されることではないでしょうか。職場のコミュニケーションが良好であることがセクハラ防止に役立つことは言うまでもありません。
「セクハラ」という言葉が新語・流行語大賞(新語部門)に選ばれたのが平成元年でした。社会的関心が高まってから30年も経つというのに、なぜセクハラはなくならないのでしょうか。大きく分けて2つ理由があると筆者は考えています。
例えば「男は外で働き,女は家庭を守るべきである」というように、性別を理由に区別する意識を性別役割分担意識と言います。筆者が小学生の頃は、男の子が学級委員長、女の子が副委員長や書記を務めるのが当たり前でしたが、いま思うとおかしな話です。ここには「女性を男性より劣った性として見る意識」があり、「女はおとなしく、男に逆らわないものだ」という誤った認識も含まれていたのではないでしょうか。
これらのセクハラが発生する場面では「女のくせに〇〇」「男のくせに△△」という言葉が使われることが多いのですが、これらもまた性別役割分担意識が根強く残っているからではないかと思います。
また昨今のセクハラの被害者は常に女性とは限らず、女性から男性へのセクハラや、同性間のセクハラも実在します。
例えば、以下のような事例があります。
ある女性陶芸家が「美人過ぎる陶芸家」というキャッチコピーをつけられたことに戸惑いを感じている、というのをテレビで観たことがあります。美しいことを褒められて何が嫌なのか? と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、彼女は自分の芸術性ではなく、容姿が評価されることに疑問を抱いているのです。
職場でもまた同じことが言えます。性別を意識せず、仕事のパートナーとしてお互いを尊重することが大切です。
私たちは幼少の頃から「人の嫌がることをしない・言わない」と教育されてきたはずです。しかしセクハラという「人の嫌がること」がなくならない理由は、自分の言動を相手がどのように受け止めるか、感じるかについて意識することができなくなっている......つまり想像力が欠如してしまっているからではないでしょうか。
たとえ言葉で「NO」と言っていなくても、相手は拒絶しているかもしれません。その想像ができないために、「NO」と言っていない=「YES」と受け止めて良い、という勝手な解釈をしてしまうのでしょう。
職場でのセクハラは、一般的に男女問わず職位の高い者から低い者へ行われるものです。セクハラをされた被害者がハッキリ「NO」と言えるケースはごくわずかなのではないでしょうか。
また、職場の利害関係があるなかで、相手が弱い立場だから「NO」と言えないことを理解できずに「相手は自分に好意を持っているのではないか」と加害者が勘違いしてしまっているケースを非常に多く耳にします。
このような、相手から好意があると勝手に思い込んだことによるセクハラを「疑似恋愛型」と呼ぶことがあります。会話のなかで部下が見せた笑顔や、メールやLINEのやり取りで部下が使った「(笑)」という文字を鵜呑みにして、自分に対して好意がある・合意があったと勘違いし、一方的に性的な関係を迫ったり、メッセージを送り続けるなどの行為をしてしまう、といった例などがそれにあたります。
あらためて、自分本位ではなく相手の気持ちを想像することを意識しましょう。セクハラが発生してしまった後のことも大切ですが、まずは会社としてセクハラ防止体制を万全にしておきましょう。セクハラはあってはならない旨の方針を明確にし、就業規則のなかに服務規程等とともに明記しておきましょう。
また、上記でお伝えしたセクハラに対する共通認識を社内で持つために社内研修やセミナー受講などが考えられますし、あらかじめ相談窓口を設置し周知しておくと、従業員の安心に繋がります。それでも、もしセクハラが発生してしまったら、被害者側・加害者側・当事者以外の第三者側からそれぞれ事実聴取をし、まずは客観的な事実を把握します。
それを面談記録など書面に残しておくことが、会社としての措置を講じた証拠にもなりますので大切です。事実確認の後、必要に応じて配置転換や懲戒処分などの検討を進めることになります。
セクハラ防止のためにはまず社内で共通認識を持つことが第一歩となります。また、法的な話をすると、男女雇用機会均等法で事業主に対して職場のセクハラ防止のために雇用管理上必要な措置を講ずることが義務づけられています。
会社としての方針の明確化や相談窓口の設置など、講ずべき措置についてもおさえておきましょう。
【参考】
・厚生労働省:事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針
【参考記事】
・これをしたらブラック企業です!~妊娠、育児、介護~マタハラ・ケアハラについて知っておこう
・これをしたらブラック企業です! ~「パワハラ」について知っておきたいこと~
Photo:Getty Images
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この記事の執筆者
宮田享子(みやたきょうこ)
社会保険労務士。産業カウンセラー。
社労士法人・税理士法人等で実務経験を積んだ後平成22年独立開業。労務相談の他、講師業やメンタルヘルス対策に力を入れている。趣味はオーボエ演奏とランニング。
みやた社労士事務所HP