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売掛金・ツケの時効はいつ?民法改正後の「消滅時効」を弁護士が解説

公開日:

執筆者:洲桃麻由子(弁護士・ニューヨーク州弁護士)

事業を行う上で、売掛金やツケの迅速・確実な回収を確保できるかは死活問題。ですが、一定の期間が経過すると時効にかかり回収できなくなるという消滅時効の制度についてお聞きになったことがある方もいらっしゃるかと思います。

取引先の事情を酌んで待っているうちに消滅時効にかかり、回収できなくなったということでは悔やみきれませんね。

ここでは、売掛金・ツケに関する消滅時効の適用と注意点について、最近の民法改正を踏まえて解説いたします。

ここでいう売掛金とは、個人や企業が提供した商品・サービスの対価として受け取るべき代金を請求する権利(売掛債権のうち手形以外の支払で代金を受け取る権利)のことを指します。

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POINT
  • 2017年民法改正において、職業別の消滅時効制度は廃止となった
  • 改正後は、売掛金・ツケの消滅時効期間は、業種に関わらず、原則として5年
  • 債務者は、時効の中断事由である「承認」(旧民法156条)を行わないように意識したほうがよい

2017年の民法大改正

2017年5月26日に「民法の一部を改正する法律」(平成29年法律44号)が可決成立し、同年6月2日に交付されました。 (※以下、同法による民法の改正を「2017年民法改正」、また同法による改正後の民法を「改正民法」又は「新民法」と記載し、改正前の民法を「改正前民法」又は「旧民法」と記載します。)

民法は、明治時代に制定されてから、幾度も改正されていますが、2017年民法改正は、財産法に関する、民法制定以来最大の改正と言われています。

消滅時効制度も、2017年民法改正により大きく変わりました。主な変更点は次のとおりです。

  • 短期消滅時効制度の廃止
  • 消滅時効制度の単純化、一本化
  • 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則の新設
  • 時効の完成を阻止するための手段の見直し

売掛金・ツケの消滅時効

改正前

簿記上、「売掛金」とは、営業取引において発生した掛売上による債権を表す勘定科目です。

つまり、売掛金というのは、通常、商行為によって生ずるものですから、一般的には、商法522条本文により、5年の消滅時効にかかります。

ただし、商法以外の法令において5年より短い時効期間の定めがある場合には、商行為によって生じた債権であっても、5年より短い消滅時効にかかります(商法522条但し書き)。

そして、改正前民法は、職業別の短期消滅時効(旧民法170条~174条)を定めていました。そのため、「売掛金」が、どのような職種での債権であるかにより、時効期間が異なりました。

3年で消滅時効にかかるもの

  • 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権(旧民法170条1号)
  • 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権(旧民法170条2号)

平たく言えば、医者が患者を診察した対価である診療報酬債権や、工事請負業者が注文主に対して有する工事代金債権については、時効期間が3年ということになります。

2年で消滅時効にかかるもの

  • 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権(旧民法173条1号)
  • 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権(旧民法173条2号)
  • 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権(旧民法173条3号)
  • 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権(旧民法172条1号)

一般的に売掛金という場合には、商品を他者に販売したことによる対価を受け取る権利を指すことが多いと思われます。そのような最も一般的な意味での「売掛金」の消滅時効は、改正前民法の下では2年で時効にかかります。

その他、例えば注文を受けて服などを製作する仕立屋さんが注文主に対して有する製作代金や、ライターの方の原稿料、デザイナーの方のデザイン作成料、学習塾や習い事の月謝についての消滅時効期間は、2年ということになります。

1年で消滅時効にかかるもの

  • 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権(旧民法174条4号)

「ツケ」という言葉は、一般的に、飲食店で飲食した客が支払うべき代金を後払いにする意味で、あるいはその後払いにした代金債権の意味で使用されることが多いですね。改正前民法の下では、「ツケ」は「料理店、飲食店」での「飲食料」等に相当し、1年で消滅時効にかかります。

現代人の感覚では、1年はあっという間に過ぎてしまいますから、1年の消滅時効期間というのは、非常に短いようにも思えます。

飲食店を経営している方が、「給料日になったら必ず支払う」というようなお客の言葉を信じて、ツケ払いを認めたら、そのお客はぱったりとお店に姿を見せなくなり、1年を過ぎてようやく顔を見せたと思ったら、消滅時効を主張して代金の支払を免れる......法律で決まっていることとはいえ、憤りを感じる経営者の方もいらっしゃいます。

改正前民法の下でこのように短い消滅時効が規定されていたのは、日常頻繁に行われる取引については、早期に権利を確定させた方が良い等の理由に基づいていたからですが、少なくとも現代においては、職業別に時効期間を定める合理性がない、複雑で分かりにくいなどの批判が強く、2017年民法改正により、短期消滅時効制度は廃止となりました。

改正後

2017年民法改正によって、前述した職業別の短期消滅時効(旧民法170条~174条)及び商事消滅時効(商法522条)は廃止され、債権の消滅時効の原則的な時効期間は統一されました。

改正前は、個人事業を営んでいる方、お店や会社を経営している方が、多忙の日々を送るうちに、消滅時効期間が過ぎて、代金を請求できなくなったという事態も珍しくはありませんでした。

また、職業別に時効期間が異なるため、どの条項が適用されるか、時効期間は1年か2年か、などの点で争いが生じることもありました。

しかし、今回の改正によって、時効期間が統一され、その期間も1~3年という短期ではなくなったため、「多忙に紛れて忘れているうちに時効にかかってしまった」という事態は少なくなるものと考えられます。

改正民法の下での消滅時効期間は、次のどちらか早い方となります。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(新民法166条1項1号)
  • 又は
  • 債権者が権利を行使することができる時から10年(新民法166条1項2号)

「債権者が権利を行使することができる時」(客観的起算点と呼ばれます)というのは、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時です。法律上の障害とは、例えば、支払期限が定められている債権について、その期限が来ていない状態、ということです。

改正前民法においても、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」(旧民法166条1項)、「債権は、十年間行使しないときは、消滅する」(旧民法167条1項)というように、一般的な債権は「権利を行使することができる時から10年」で消滅時効にかかるという原則が定められていました。新民法166条1項2号は、この原則を引き続き採用しているといえます。

他方で、新民法166条1項1号は、「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点と呼ばれます)から5年という、10年よりも短い消滅時効期間を定めています。

多くの場合、債権者は、客観的に権利行使が可能になった時点で、その事実を認識しているものと思われます。ですから、改正後は、多くの事例で、10年ではなく5年の消滅時効が適用されることになると考えられます。

したがって、売掛金・ツケの消滅時効期間は、業種に関わらず、原則として5年ということになります。売掛金・ツケの債権者は、権利を行使することができることを知っているのが通常だからです。

なお、改正民法において、「人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権」については、債権者が権利を行使することができる時から20年というように、時効期間が延長されています(新民法167条)。本テーマとは関係性が薄いため、説明は割愛します。

いつの取引から新法が適用されるの?

改正民法の施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、従前の例によります(民法の一部を改正する法律附則10条4項)。

改正民法の施行日は2020年4月1日の予定ですので、2020年4月1日より前に生じた債権については改正前の民法、同日以降に生じた債権については改正後の民法が適用されることになります。

時効期間はいつから起算するの?

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改正前

旧民法166条1項は、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。」と定めていました。

売掛金・ツケの消滅時効についても、もし支払期限について、当事者間で約束をしていれば、約束された支払期限から時効期間は進行します。

特に約束がなければ、契約成立時(飲食店でのツケの場合は飲食した当日)から進行することになります。

例えば、2018年12月25日午後10時に飲食店で飲食を終えたお客の飲食代をツケにする場合、改正前民法の下、時効期間は2018年12月26日から起算することになり、2019年12月25日を過ぎると、消滅時効が完成します。

2018年12月26日から計算するのは、期間の初日は、その期間が午前零時から始まる時を除いて算入しないという民法の規定(初日不算入の原則。民法140条。なお、同条については改正後も変更はありません。)によります。

他方、もしそのお客が、「今月30日に支払うからそれまで待って」と店主に頼み、店主もこれを承諾した場合、弁済期は2018年12月30日ということになります。

このように確定期限を定めた場合には、その期限が到来した日の午前零時から債権者は権利を行使することができると考えられるため、消滅時効の起算日は2018年12月30日ということになり、2019年12月29日の経過により時効が完成することになります。

改正後

2017年民法改正により、新民法166条1項の条項の中に、「権利を行使することができることを知った時から(5年)」「権利を行使することができる時から(10年)」と起算時期が盛り込まれました。

売掛金やツケについては、債権者は、権利を行使することができることを知っているのが通常であると考えられます。したがって、支払時期について特に約束がなければ契約成立時から5年、支払時期について約束がある場合はその支払時期(支払期限)から5年で消滅時効が成立することになります。

ただし、仕事の請負代金(ライターの原稿料、デザイナーのデザイン作成料等が含まれる)については、特に支払時期について約束がない場合は、仕事を完成して注文者に引き渡した日から5年と考えるのが合理的です。

もっとも、注文主の方から、契約成立日(仕事完成日より早い日)からの起算を主張されるおそれもありますので、仕事を請ける側としては、後のトラブルを避けるため、代金の支払時期(前払いか後払いか、後払いとするといつのタイミングで請求できるようになるのか)を明確にすべきです。

売掛金・ツケの支払が遅れている場合の債権回収の方法

改正前

改正前民法の下では、時効の完成を阻止する制度として、時効の「中断」と「停止」が存在しました。ここでは「中断」について解説します。

時効の中断となる事実(中断事由)があると、それまで経過した時効期間が効力を失うことになります。中断事由が終了すれば、再び時効は進行しますが、中断前の期間は通算されません。

中断事由は以下のとおりです(旧民法147条)。

  • 請求
  • 差押え、仮差押え又は仮処分
  • 承認

これらのうち、「請求」と「差押え、仮差押え又は仮処分」は債権者の権利行使行為であり、「承認」は債務者の債務承認行為です。

売掛金・ツケの支払が遅れて困っている事業者の方としては、債務者(支払うべき人・会社)に対し、代金支払訴訟を提起すれば、「請求」として中断事由になります。

時効完成が目前に迫っていて、訴訟の準備をする時間的余裕がない、という場合には、時効完成前に、取りあえず「売掛金(ツケ)を支払ってくれ」と債務者に伝えたり、支払催促の書面を送ったりするだけで、催告の後6カ月間の猶予を設けることができます(旧民法153条)。これを「催告」といいます。

ただし、「催告」は、6カ月以内に、訴訟提起や民事調停の申し立て等の「裁判上の請求」をしなければ、時効の中断の効力を生じません。一度催告して6カ月の猶予を作り、その6カ月間の経過前にまた催告をしても、時効は中断されません。

なお、「催告」について特段の書式はありませんが、確実に催告を行ったことの証拠を残すため、債権の内容、発生時期、金額、支払期限等を明らかにした上で、内容証明郵便で行うことをお勧めします。

改正後

2017年民法改正により、「中断」「停止」という制度は、時効の「更新」と「完成猶予」という制度に改められました。「完成猶予」とは、その間は時効が完成しないことであり、「更新」とは、新たに時効期間が進行を開始することです。

ただし、「中断」「停止」から「更新」「完成猶予」への制度改正は、主として用語を理解しやすくしたものであり、制度自体に大きな変更はないといえます。

従来の「中断」は、上述したように、中断事由の発生によって、時効期間がリセットされ、中断事由がなくなった場合はゼロからスタートすることを指しますが、一般用語としての「中断」からは、「一旦時効の進行は止まる(一時停止する)が、中断事由がなくなればまた進行を再開し、中断事由前の期間も通算される」というような事態をイメージしやすいため、誤解を与えるという指摘がされていました。

そこで、「更新」というように、時効期間がリセットされるという実態により近づけた用語に変わりました。「停止」についても、「時効の進行を一時的に止めるものであり停止事由がなくなれば時効は再び進行し停止事由前の時効期間も通算される」という実態がより伝わる用語として、「完成猶予」となりました。

これにより、訴訟提起等の裁判上の請求をすると、その手続きが終了するまでの間は、時効の完成が猶予されることになります。

そして、判決が確定すると、それにより権利が確定し、時効は判決確定時から新たに進行を始めることになります。その場合の消滅時効期間は、10年より短い消滅時効期間にかかる債権であっても、10年となります(新民法169条1項)。

以上のような手段で時効の完成を阻止し、消滅時効完成前に手順を踏んで請求すれば、代金支払請求権(売掛金・ツケ等)を確保することができます。

時々、仕事をしたが請求書の発行をし忘れていて、少し遅れて注文主(支払う側)に請求書を送ったら、既に注文主側の会計年度末が過ぎており、締めが済んでいるので処理できないと言われて困り果てるというような事例も耳にしますが、支払者側の会計処理の都合によって法的な代金支払請求権が損なわれることはありません。このような場合にもきちんと支払ってもらいましょう。

あなたが債務者の立場(買う側)にいる場合の注意点

改正前

もしあなたが債務者(支払を求められる立場)である場合には、自身の希望に反して、消滅時効を援用できなくなる結果を招かないように注意しましょう。

最も注意すべきなのは、時効の中断事由である「承認」(旧民法156条)を行わないようにすることです。

消滅時効における「承認」とは、債務の存在を知っていることを債務者が確認することであり、債務者が消滅時効の進行を認識しているか否か、時効を中断しようとする意思があるか否かを問わないとされています。

債務の一部の支払、利息の支払、支払猶予の申し込み等も、「承認」に該当すると考えられています。

もう少し待てば消滅時効が完成したのに、そのことを知らず、債権者の求めに応じて、一部の支払に応じたために、債務全額について消滅時効の援用ができなくなる、ということもあり得ます。

改正後

債務者による「承認」が消滅時効の完成を阻止するのは、改正民法でも同じです。ただし、「中断」という制度は改められましたので、債務の「更新」事由となります(新民法152条)。

なお、新法においては、債権者と債務者の間で権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた時は、その合意があった時から1年を経過した時など一定の間は、時効は完成しないという規定が新たに設けられました(新民法151条1項1号~3号)。

電子メールなど、電磁的記録による合意も、書面による合意とみなされます(新民法151条4項)。

この制度が新設されたことによって、当事者間の協議によって解決ができそうなのに、時効期間が迫って来て、時効の完成を阻止するだけの目的で訴訟提起等に踏み切らなければならないというような事態を回避することができるようになりました。

したがって、債務者が、債務を承認するまでには至らなくとも、「支払ってほしい」という債権者からの通告に対して、「協議の上対処したい」などのメッセージを電子メール等で送ると、協議を行う旨の合意が成立したことになり、一定期間、時効の完成が猶予されることになり得ることに注意が必要です。

消滅時効の起算日、時効期間、時効完成阻止の方法等について、正しく法の解釈適用をするのは容易ではありません。

特に2017年民法改正の施行前に発生する債権については、複雑な短期消滅時効制度が適用される可能性があります。

事業者の方々におかれて、ご自分がお持ちの債権について、または請求を受け得る債務について、消滅時効が気になる場合には、ぜひ専門家(弁護士)に相談されることをお勧めします。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者

洲桃麻由子(弁護士・ニューヨーク州弁護士)
洲桃麻由子(弁護士・ニューヨーク州弁護士)

すもも法律事務所(東京都中央区) 代表弁護士。日本弁護士連合会民事司法改革総合推進本部幹事(執筆時現在)。大手渉外法律事務所で研鑽を積み、2015年に新たに現事務所を開設。
民事・商事・労働・家事・刑事事件など幅広い分野で、法律を武器として理不尽と闘い、依頼者の利益を最大限に実現化することを使命としている。英語対応可。
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